【税務】建物の減価償却のメカニズムを深く掘り下げよう

不動産投資を行った際、大きなメリットを生む可能性があるポイントの1つに減価償却の損金算入があります。

減価償却資産となるのは土地建物の内、建物だけですので、建物の価格を多くとれば、それだけ減価償却対象資産が大きくなり、減価償却費による節税効果が期待できることになります。

ここでは減価償却にスポットを当て、掘り下げてみたいと思います。

減価償却の仕組みを知る

具体的なメリットについて説明する前に減価償却の仕組みについて説明します。

減価償却とは、固定資産を購入した際に、購入費用を資産として計上し、その資産が価値を有している期間に購入費用を配分するという会計処理です。

資産が価値を有している期間のことを減価償却期間、各期間に配分された費用のことを減価償却費といいます。

減価償却の方法には定額法(毎年同じ額だけ減価償却する方法)と、定率法(前年度の資産残存額に毎年同じ率を乗じて減価償却費を計算する方法)等がありますが、定率法による建物償却は現在は認められておりません。

また、土地は一般的に減価しないという前提になっているため、不動産投資においては減価償却は建物にのみ適用されます。

イメージを持っていただくために、土地の値段を考えずに1,000万円の建物を購入したとして、減価償却期間(耐用年数といいます)が5年(通常はより長い期間と考えられるが単純化のために短い期間を設定しました)、減価償却期間満了時の価値率(これは残価率といいます)が0%の場合の減価償却処理を見てみます。

【表1 減価償却イメージ 単位:万円】

購入時 1年目 2年目 3年目 4年目 5年目
資産額 1,000 800 600 400 200 0
減価償却費 200 200 200 200 200 0
減価償却累計額 0 200 400 600 800 1,000

この場合、固定資産(=不動産)の価値が1,000万円、減価償却期間が5年なので、1年当たりの減価償却費は1,000万円÷5年間=200万円です。

表1を見てみると、当初の資産額1,000万円が1年毎に200万円ずつ減価償却費の形で価値が減っています。

減価償却費の額の合計を減価償却累計額といいますが、減価償却期間の最終年度である5年目で資産額が0円となり、減価償却累計額が1,000万円、当初の資産額と同額となっていることがわかります。

実際の減価償却に当たっては耐用年数の設定が大きく関係してきます。国税庁のホームページ(https://www.keisan.nta.go.jp/survey/publish/34255/faq/34311/faq_34354.phpなど)に建物の耐用年数表などが掲載されているので、参考にしてください。

ここで注目したいのは、減価償却はあくまで会計処理上このように購入費を配分する処理であって、減価償却費は実際にお金が出ていかない費用である点です。

表1ではキャッシュが実際に出ていくのは購入時の1,000万円だけで、毎年の減価償却費は実際にキャッシュを出す必要はありません。

つまり、毎年必要となる減価償却費は、表1でいう減価償却累計額の形で手元にキャッシュとして残ります。

この点に着目して、減価償却計画を綿密に立てておくことで、税金の金額をある程度コントロールして合法的な節税策に役立てることができることになります。

減価償却は「課税の繰り延べ」という考え方が正確

以上では合法的な節税策という言い方を便宜的に行いましたが、より正しい言い方をすると減価償却は「課税の繰り延べ」を行っているにすぎません。

つまり、減価償却は税金のコントロールには使えますが、永遠に税金の支払をしなくても良くなるわけではありません。

不動産賃貸経営以外の事業では黒字の年度も赤字の年度もある、つまり業績の好不調の波があるものですから、黒字のときに減価償却を使い利益を圧縮し、赤字の時に減価償却資産を売却し相殺するようなことをします。

一方不動産賃貸事業ではテナント確保や物件管理が上手く行って安定飛行になれば赤字になりにくい事業です。そのため、保有期間に減価償却費を多く取っていても、将来その物件を売却した時には多額の利益が発生し、課税されることになります。

つまり不動産投資における減価償却は、「現在課税されるべき税金を、物件売却時まで先送りしている」というのが正しい言い方になります。

ただし、修繕や新たな減価償却用の収益物件を購入するといった対策を取ることで更に将来に課税を先送りできるという特徴も持っています。

永遠に税金を払いたくない場合はさらなる投資を繰り返し、減価償却を利用して節税して課税を繰り延べる、ということの繰り返しになります。

しかし、以下の点を考慮した上でうまく使えば減価償却も投資の拡大や税金支払い時期のコントロールには大変有用です。

(1)課税を先送りして残った現金(以下、「減価償却累計額」)を、次に購入する収益物件の購入資金に利用する
(2)減価償却累計額は、無利息で融資を受けたのと同じ効果がある
(3)個人の収益物件売却時は、5年以上保有すると長期譲渡所得になるため譲渡所得税の税率が低くなる
(4)中小法人の場合も課税先送りで課税所得を800万以下にできれば、実効税率を下げることができる

長期保有を目的とする不動産投資では、保有物件の減価償却累計額を次の物件の購入の頭金に使えることは大きなメリットです。

5年以上その物件を保有することを考える個人であれば、長期譲渡所得の20%程度の税率が適用されるため、高額所得者は、建物の減価償却で保有期間中の利益を圧縮することができ、更に売却時の利益も20%程度しかかからず、税務対策上有利になります。

減価償却費を多くとるためには

では減価償却費を多くすることが節税に結びつくことは理解頂けたと思いますが、実務面でどのように減価償却費を大きくするかを紹介します。

ここで大切なことは、売主が消費税課税の対象者か、そうでないかです。

売主が消費税課税の対象でないのであれば、売買契約書では土地建物価格を分けて記載せず総額表示とし、それぞれに有利な方法での土地建物価格を税務上申告するという方法を採ることができます。

一方、売主が消費税の課税対象者であれば、一般的には売主は消費税額を抑えたいでしょうから建物評価額を低くしようとするのが通常です。

また、税務申告上無制限に建物価格を大きくしたり小さくしたりすることが許されているわけでもありません。

これを踏まえて、以下のような主な土地建物価格の按分方法のうち、どの方法が最も有利で適切かを状況に応じて考えていただきたいと思います。

尚、税務申告に関わることであるので、顧問税理士に事前に十分な相談をすることをお勧めします。

土地建物価格の按分方法の例

土地建物価格の按分方法には、以下のような方法があります。
①土地・建物の固定資産税評価額割合で按分する方法
②土地の相続税路線価と面積から土地価格を算出して売買総額から控除し、残額を建物価格とする方法
③建物の再調達原価と経過年数から建物の価格を算出して売買総額から控除し、残額を土地価格とする方法
④購入に伴う消費税によって割り戻して建物価格を計算する方法

このうち①、②、④については比較的定性的な計算方法になりますから、税理士や不動産業者等で多く行われている方法です。

③については建築士や不動産鑑定士による判断が必要になってきますので、やや費用の掛かる方法になります。

不動産賃貸運営のソフト面を考慮できる不動産鑑定士の活用

土地建物価格の内訳が売買契約書に記載されている場合、売主が消費税の課税事業者であれば、売主は当然消費税額を抑えたいので建物評価額を低くしたがる傾向にあります。

しかし、そのような場合でも減価償却費を多く取りたい場合は、売主が妥当と考える建物価格と買主であるご自分が考える建物評価額の差額に対する消費税相当額を売買価格にやや上乗せしても、ご自分の考える評価(理想とする減価償却計画に近い価格)に合わせてもらうことが有用である場合もあります。

このような場合は、税理士を通して不動産鑑定士に評価を依頼して、建物価格を多く評価することもできます。

特に貸家の売買で賃貸条件が優良であり、原価法による価格よりも現在の賃料条件を前提として算出される収益価格が高い場合、不動産鑑定士は建物残余法等を利用して建物価格を算出することができます。

無制限に建物価格を大きくできるわけではありませんが、固定資産税評価等のいわゆる定性的な評価ではなく賃貸条件を加味した建物価格を出すことができるので、いわゆる建物の維持管理や賃貸経営、借主募集等ソフト面を織り込んだ建物価格を出すことができる可能性があります。

この方法は少々時間や費用はかかりますが、税理士を通じて不動産鑑定士に依頼することで、売買契約書に土地建物価格が記載するという案が出されていても、売主に差額分の消費税額を売買代金に上乗せするという交渉を行うことでそれ以上の建物価格とすることができる可能性を持っています。

上乗せ分を交えた費用と節税効果のバランス、お考えの投資計画を突き合わせたうえで検討してみる価値はあるでしょう。

まとめ

  • 減価償却は実際にお金が出ていかないものだが、税務上費用として計上できるため、保有期間中の節税効果がある。
  • 減価償却は保有期間中の課税を物件売却時まで先送りしているに過ぎないが、新たな収益物件を購入したり、修繕したりすることで税金をコントロールすることはできる。
  • 減価償却費の累計額を利用して新しく物件を購入したりすることもできる。
  • 個人の場合、物件保有期間が5年を超えれば長期譲渡所得となり、保有期間~売却時を通した税額を低くできることで節税効果が享受できる。
  • 建物価格を多く取ることで減価償却費を多くすることができるが、土地建物価格の按分方法には様々な方法があり無制限にできるわけではない。
  • 売買契約書には土地建物価格の内訳を記載せず、買主・売主双方が自分にとってより有利な方法で税務申告をするという方法もある。
  • 不動産鑑定士の評価は不動産賃貸運営の巧拙というソフト面も考慮することができる。但し、依頼費用が必要であり、また無制限に建物価格を大きくできるわけではない。

 

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