訳アリ物件購入記

私は今まで埼玉都市部や東京郊外の築古戸建てを専門に購入して来ましたが、最近は23区でも都心部で8%~9%という高い利回りを設定して購入しています。しかも、再建築不可や借地などの資産価値の低い物件ではなく、きちんとした所有権の物件に絞っています。
そうすると、自然と何らかの訳アリの物件に行き着くことになります。今回は、つい一カ月前に購入した訳アリ物件の購入記をご紹介します。

買主は宅建業者に限るという条件

3カ月ぐらい前、ある不動産業者と知り合いになりました。その業者は、一都三県の中古戸建、土地、区分マンションと自社買付物件の未公開物件をすべてシステムで公開する、ということを売り文句にしている業者です。なかなか普通の業者はこういう思い切ったサービスはできないと思うのですが、この業者は本業は人材派遣で、そちらの資本を元手にリフォーム業、不動産業に進出してきたという新興業者です。そこで、システムでの検索はユーザーが自宅のPCブラウザでできるので、これは便利な業者を見付けたと思い、1カ月ぐらいひたすら検索していました(ただし、戸建てと区分マンションしか扱っておらず、いわゆる収益物件は取り扱っていません)。

そこで、1カ月ぐらいしてたまたま見付けたのが、渋谷区1200万という築古戸建です。築40年、土地26平米、建物30平米と狭いですが、所有権で再建築可能であり、瑕疵と言えば私道の持分がないぐらいでしたので、これは又とない掘出し物だと些か興奮してアプローチしました。ちなみに、この時点で売り出しから既に一週間程度経過していました。

今思えば、この好条件の物件が一週間経過して売れていないということについて、もっと警戒してもよかったと思います。しかし、当時は好条件に完全に目が眩んでいました。システムを運営する仲介の業者が出してきた回答は、「先方は建物の瑕疵担保責任を負えないので宅建業者にしか売らないと言っている、だから、弊社で個人でも購入できる方法を考えます」というものでした。そして、2~3日して出てきた方法というのが、以下のようなスキームでした。

売主→A社(宅建業者)→B社(事業会社)→買主

その仲介業者が言うには、「先方が負えないと言っている業者責任はうちも負えない、がしかし、宅建業者も法人形態の一般事業者に売れば責任はないし、もちろん一般事業会社であれば売り先が個人であっても業者責任はない。だから、このスキームでやらしてもらいたい。」ということでした。しかも、この2社を間にかますのに経費が200万かかるということでした。この時点で買い増し200万されるというのは、正直かなり悩みましたし、それ以上に不快でした。リスクを負わないだけでなく、逆に200万も取られるなんて暴利としか言いようがありません。しかし、それでも路線価で900万ぐらいは出ている土地でしたし、現地を見ても占有があったりという状況でもないし、登記簿謄本にも特に瑕疵はなかったので、問題ないだろうとゴーサインを出しました。

停止条件付売買契約とグループ会社のオーナー社長

契約段階で出てきた問題が、停止条件付売買契約という売買契約です。通常、借地権の土地売買などで地主の承諾が得られていない場合、地主の承諾を得ることを条件にして契約を締結するケースなどに用いられるようです。つまり、一定の条件が成就することによって、契約締結日に遡って契約の効力を発生させるもので、条件が成就しなければ契約はなかったものとされます。今回のケースでは、売主とA社との売買契約を停止条件にするというものでした。私も不動産業者ではないので、このような契約は初めてで、関連の法律事務所でリーガルチェックをするなどの対応に追われました。

私がB社と停止条件付売買契約を結んでから3日ぐらいして、売主がA社との売買契約に応じました、との連絡があり、無事売買契約が有効に成立することになりました。ちなみに、私がB社と契約を結んだとき、グループ会社のオーナー社長と名乗る人物が現れ、関連会社の謄本を示した上で、買収されそうになった会社を社員の立場から少ない資本で対抗して立て直し、大きく育ててきた経歴を滔々と述べに来ました。どうやら親しくなりたいみたいな感じでしたが、気持ちは分かりますが、こういう時は前のめりの姿勢は逆効果ですね。「リスクを負わなければ成功はありませんよ。」というオーナー社長の言葉は、これだけリスクを逃げといてどの口が言うか、と私の不信感を逆なでする結果となりました。冷静に客観的に考えれば、自分は社長として自分の会社の社員の給料支払いなどのリスクを負う立場にあるということなのでしょうが、こちらが買主という立場ではそのような内部事情などに思慮を巡らす余裕はありません。今になって思い返すと、あのオーナー社長が心配になります。彼は会社を大きくして大勢の社員を食べさせるというリスクに耐えられるタフさを持っているのでしょうか。私が不動産投資に入ったきっかけは、会計事務所にいて、事業会社の監査役なども引き受けたこともあり、多くの会社の内部トラブルや離散を近くで見て、人材というもののリスクにつくづく嫌気が指したということにあります。事業会社のオーナーになって投資したとしても、そこで実際に働く人材は投資した分に見合う働きをしてくれるとは限りません。能力がないかあるいは怠慢で、きちんとした仕事をしないという分かり易いケースならそれを理由に解雇できるのでまだマシかも知れません。しかし、真面目に働き能力のある人材が仕事をしていても、必ずしも事業がうまく行くとは限りません。そのような時はオーナーは拡大していくリスクを黙って抱えて耐えるしかないこともあるのです。それに比べ、不動産は大きく稼いではくれませんが、確実に結果を出してくれる投資です。マイナスが出たとしても、都心の一等地であればそれほど大きな価値毀損はありませんからタカが知れています。私は、問題のある不動産を購入するときは、いつも原点に立ち返ってこのようなことを思い返すようにしています。

中間省略とローン会社の貸し渋り

そこで、いつも三井住友トラストローン&ファイナンス(以下、トラスト)に融資の依頼をして審査も通り、一カ月後に決済引渡しの運びとなりました。しかし、このプロセスでもいくつかの問題が発生しました。
第一に、中間省略という特殊な登記方法をローン会社お抱えの司法書士が認めてくれるか、という問題でした。仲介に入った不動産会社の意向は、少しでも経費を節約するため、間にかませるA、B2つの会社への所有権の移転
登記を省略したい、ということでした。このように、トンネル会社を使った売買取引の場合では、中間省略という登記方法により、トンネル会社の登記を省略し買主へ直接所有権移転登記をすることが認められているらしいのです。この辺りは細かい手続きを受けるか受けないかの問題だと思うので、業者任せにしました。結局、トラスト側の司法書士も納得し中間省略を行うことになりました。

第二に、トラスト側が融資に条件を付けてきました。それは、トンネル会社であるA社、B社への入金は認めない、売主への直接入金に限る、というものでした。当初は、仲介の不動産会社が、A社、B社には資金調達能力がないため、少なくともA社への入金という条件を付けていたのです。私も会計事務所にいたので、このような資金の流れのない取引は税務上かなりリスクがあることは分かります。下手すると、贈与とみられて受贈益課税をされかねません。おそらく、くだんのオーナー社長の役員借入による資金調達という形式で解決したのだと思いますが、程なくして業者がトラストの条件を呑むことになりました。しかし、今回、手元資金を減らさないという以上に、トラストの融資を付けたのはリスクの明確化という面からメリットがあったと感じました。このように、一瞬とは言え、本来の買主でないトンネル会社に資金を渡すことは持ち逃げのリスクがあるわけですし、停止条件付売買契約の文言にもトラストは詳細なチェックを入れてきて、A社の社名が間違っているという点を指摘、修正させてくれました。問題のある取引を行う場合、信頼できる第三者を関係者に取り入れるというのは、リスク回避という面から非常に意義があることだと思います。トラストの融資手数料は高額ですが、小さい信用金庫などではここまでのチェックをしてくれたかは疑問です。トラストのような大手の看板、豊富な資金、マンパワーがある金融機関だからこそできた業と言えると思います。

引渡し後に明らかになった訳アリのわけ

トンネル会社を通すという尋常でない取引も無事終わり、決済引渡しとなった後、仲介に入った不動産会社が私道の所有者に対し、通行掘削承諾書を取りに回ってくれることになりました。通常、このような承諾書は引渡し前に取る手配をしてくれるものですが、今回、売主が協力的でないことを理由に、動いてくれませんでした。今から振り返ると、訳アリの事情が明らかになることを恐れていたんだな、と思います。

引渡しから数日後、近所を回っていると、私道所有者の一人が、私の購入した物件の隣地所有者が、実際には少し離れたところに住んでいることを教えてくれました。実は、この物件は、上下水道が隣地の敷地を通って引き込まれていることが事前の調査で判明しており、どこかのタイミングで隣地の所有者とはこの問題をどうするのか、話し合いを持つ必要がありました。
そこで、不動産業者に同行して訪問し、ドアを開けて「このたび、お隣の土地を購入した者でして、ご挨拶に伺ったのですが…」と挨拶の言葉を言う間もなく、応対に出た婆さんが「何だって!?あなた、買ったなんて買えるはずないじゃないの?あそこはうちの物なんだから!」といきなり恫喝。正直、ビビりました。しかし、不動産業者は慣れたもので、相手を必要以上に刺激しないよう、必要なことをうまく聞き出してくれました。その隣地所有者の婆さんの話をかいつまんでまとめると、このような話になります。

隣地所有者の婆さんの旦那をOとします。Oには愛人Uがいました。建築会社の棟梁で地元では飛ぶ鳥を落とす勢いだったOは、正妻がいるにも関わらず、愛人Uに自分の土地を分け与え、その土地に愛人UのためにO負担で家を建て、住まわせました。これが40年前のことです。登記簿謄本によると、この家は40年前の新築時からUの名義になっており、少なくともこの時点では所有権の移転の認識が当事者間にあったことを伺わせます。ただし、愛人Uは使用料月5000円支払うこととしていて、これはおそらく土地建物の代金の分割弁済と考えられます。そして、住まなくなったらOに返すか、あるいは第三者に売却する場合には、売却代金の中から400万円をOに支払うという約束を交わしていたと言います。これらの約束の時系列は不明です。普通に考えれば、無償で返却と、400万円以上で売れたらそれを超えた部分はOに返却しなくてもよい、という契約は両立しませんから、返却するしないの交渉を相当期間行った上で、比較的最近になって400万円をOに支払うから第三者に売却してもいい、という話でまとまったものと考えるのが自然でしょう。しかし、正妻の婆さんの話によると、愛人Uから売れたという連絡は受けていないし、代金も一切受け取っていないと言うのです。ちなみに、登記簿上は愛人Uは10年ぐらい前にその娘Mに贈与していて、今回私は、このMが不動産業者に売却したものを、トンネル会社の転売を通して購入したという流れになっています。

この話を聞いた後、弁護士に相談したり、自分でも調べましたが、実はこれが事実なら問題はそれほどありません。この婆さんの話ですと、最初「あれはうちの不動産だよ」と主張しているものの、話を全部聞けば、Uが第三者に売却した場合の話までしているのですから、当事者間にUへの所有権の移転という認識があったことは明らかです。あくまでも、これはOとU間での代金の精算の問題であり、購入した第三者には一切関係のない話ということになります。

ただし、この経緯を一切Oは知らず、UがOに何の相談もせず無断で売却した、となると少々問題が生じます。Uは他人の所有不動産を勝手に売却したことになり、他人物売買が成立する可能性があるからです。他人物売買の場合、善意(他人物であるという事情を知らなかった)の第三者であっても、不動産の所有権移転はありません。ただし、この場合であっても、善意の買主は売買契約を解除でき、売主に対して売買代金の返還と損害賠償を請求することができます。

従って、どのような事情を想定しても、事情を知らないで購入した私は損をすることはないのですが、購入した不動産の所有権が不安定であるというのは、売却する際にもリスクがあることになり、投資としてはあまり良いこととは言えません。いずれにしても賃貸で回していれば、とりあえず賃貸料は享受できますから(ただし、他人物と認定された場合はこれもいったん本来の所有者に返却しなければならない可能性は残ります)、キャッシュフローはプラスになるので良しと考えています。

今回、訳あり物件のわけがこの程度で済んだのは幸運だったと考えるべきなのではないでしょうか。本当に恐ろしい他人物売買は、世間で騒がれている地面師による詐欺のようなケースです。最近では某大手ハウスメーカーが、品川区の一等地の売買契約で地面師の詐欺に合い、63億円を騙し取られたという事件がニュースになりました。地面師は、元々他人の物である不動産を、売却代金を騙し取る目的で他人になりすまして売却し、売却後は姿をくらましてしまうという犯罪集団です。このような確信犯の詐欺に巻き込まれたら法律がどうなっているかなどは全く関係ありません。売主が法の目を逃れて捕まらなければ、代金や損害を回収する手段はゼロに等しいと考えられます。このような被害に合わないために、契約前に自分の足で聞き込み調査をするぐらいの手間は惜しむべきではないと言えます。

まとめ

都心部で相場より安い物件、短期間で転売されている物件などを購入する場合は要注意です。本気でリスクを軽減するならば、自分で近隣に聞き込みをして回るなどの調査も必要でしょう。

ただし、基本的には事情を知らない善意であれば、法律上保護される仕組みになっているので、損をするリスクは低いと言えます。売主がしっかりした相手であれば、代金返還、損賠賠償などを求めることができるので、売主の調査をしっかりすることが最も重要と言えるでしょう。