2019年8月更新
夜逃げが起きた時にどうすべきか①では、突然の夜逃げにびっくりしつつも大した問題ではないと甘い見通しを持っていた筆者ですが、管理会社とともに法律事務所を訪問してから、その後の手続きの長さを知ることになるのです。
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苦労の法的手続き
O先生(その後もいろいろお世話になりますが、この時が初対面)との面談で、冒頭に、「夜逃げをしても賃貸借契約が有効なうちは、借主に断りなく部屋に入って残置物を処分したり、鍵を交換したり、新たに借主を募集することはできません。まずは、賃貸借契約を終了させましょう。」と言われ、これは長期戦になるなと覚悟しました。
夜逃げにせよ、長期滞納者を強制退去させるにしても、「賃貸借契約の解除」,「明け渡しの強制執行」という二つのステップを踏む必要があります。以下にそのステップを開設します。
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賃貸借契約の解除
契約を解除が認められるのは、客観的にみて信義則(good faith)が破壊された場合に限られます。
皆さんも賃貸借契約内で規定されているかもしれませんが、当方の賃貸借契約の特約には「家賃滞納即時解除条項」を入れていました。
ところが、実際に家賃の滞納があったとしても、客観的にみて信頼関係が破壊されたとまでは言えない場合は、即時解除は認められないとのことです。
家賃滞納により客観的にみて信頼関係が破壊されたといえるのは、少なくとも3か月以上滞納しており、催告したにもかかわらず、なお支払いがないというような場合です。
催告は、証拠が残るように内容証明で行います。内容証明には、金額と期限、支払方法とともに、期限内に支払いがない場合は契約を解除する旨を明記します。
(今回の保証会社は詰めが甘く、内容証明による催告は1月しか行われておらず、あと二か月は続ける必要があるとの弁護士判断でした。)
また、夜逃げですので内容証明を送っても送達されず戻ってきてしまいます。そのため、裁判所に申し立てて、公示送達という手続を利用します。
この手続きを利用すると、催告などの意思表示の内容が裁判所と市区町村役場に掲示されます。掲示された日から二週間経過すると催告などの意思表示が到達したこととみなされます。(つまり、二か月+二週間が必要。)
また、ここまで読まれた方は、「公示手続なんてやる必要あるの?」と思われるかもしれません。
無催告で行った場合、解除が認められる場合もあるそうです。判例では、「催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情が存する場合」は、無催告で解除できるとされています。
ただ、何が「催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情」に当たるのかが明確でなく、無催告解除したつもりが後から実は無催告解除が認められずにまだ契約が成立していたとなると大変厄介なので、催告はしておいたほうが無難というのが弁護士の判断でした。
そして、催告時に定めた支払期限を過ぎてもなお支払いがない場合は、ようやく契約を解除することができますが、これも自動的に解除になるわけではなく、解除を借主に通知しなければなりません。
これがまた先ほどと同じく公示通達で行われるのです。
なんという手間でしょう!!当方この時点でかなりくじけそうになりました。
ただ、まだ契約の解除にすぎないのです。
これから強制執行をやって、そこでようやく強制退去ができるのです。
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明け渡しの強制執行
そして、裁判で明渡しの請求が認容されたら、次は明渡しの強制執行を申立てます。
いわゆる世間でいう強制退去とはここまでやって初めてできるものなのです。
なお、強制執行に及んでも残置分を勝手に処分することができるわけではありません。
滞納家賃等の請求権の認容判決を債務名義に残置物の差押、競売を行い、弁済に充当することで処分することができます。
ただし、この方法によっても資産価値の高い残置物の処分は許されず、一定期間倉庫などで保管しなければなりません。
当方の場合、ふとんや簡易的な箪笥が残置物でしたので、ここまでは残置物の競売や資産価値の高い残置残津物の保管というステージには行きませんでしたが、いずれにせよ、新しい入居者を入れるまでに七か月の時間と弁護士費用を要し、疲労だけが残る強制退去でした。
反省点
- 管理会社、保証会社経由の家賃入金でも対応が発生してないか毎月確認し、必要な手はタイムリーに打つ。
- 滞納が長期化した場合、明け渡し訴訟まで踏まえて、最悪ケースを想定しておく。(内容証明をきちんと送っておくのが重要。)
- 入居者への過度な同情は不要。支払うという言葉だけに依拠せず、きちんと入金実績を確認し、法的手続きをためらわないこと。
さて、本コラムのタイトル「夜逃げが起きた時にどうすべきか?」への回答ですが、上術の通り、起きてからでは遅いのです。
答えは、パラドックス的ですが、「夜逃げが起きる前にきちんとそのような事態が起きないように対処すべき。」ということになります。
基本の入金確認等を保証会社に丸投げしてしまい、基本動作をおろそかにした筆者の失敗談になります。