前回から続く、ア○○トビデオ撮影現場と化した自己保有物件でのトラブル対策後編です。
ア○○トビデオ撮影が所有物件で起こったらどうしたらよい?(前編)
本記事ではいよいよ賃借人との交渉開始です。
ア○○トビデオ撮影現場になった場合の法律的定義
さて、今回の賃借人の行為が法律的にどのように該当するかをまずは整理しました。
これは簡単で、賃貸契約書上に当然転貸禁止条項がありますので時間貸しでも完全に解除事項に該当するので、これは契約違反です。
さてこの転貸禁止条項をベースに交渉すると決めました。
入居者と交渉開始
いよいよ問題入居者との対峙です。
当方の主張は「転貸禁止条項があるじゃないか?」というものです。
当然、入居者との賃貸契約には転貸禁止条項があり、それを使えばあっさり契約解除できるものと思い、管理会社を通じて
- 無断転貸が疑われる事実がある。
- 転貸により周囲が迷惑している。
- ただちに転貸をやめるか、従わない場合は退去してください。
と、入居者に伝えました。
「どうなるかなー」
と回答を待っていると早速次の日に問題入居者から書面で回答がありました。
(のちに分かりますが、勤務先の会社では法務を担当しており、相当法律には詳しいようで、手慣れた感はありました。)
入居者からの回答は以下のとおりです。
- ビデオ撮影はしてたのは事実だが、無償で撮影してもらっており、対価は得ていない。
- 私(入居者)は大勢でセ〇〇スしたり、ビデオで撮影されることが好きなので、趣味の範囲でやっている。もちろんビデオで撮影されても対価は得ていない。
- 友人に撮影してもらっているが、それが売られているかは承知していない。
- とにかく撮影されながらセ〇〇スすることが楽しいので、それ以外のことは気にかけたことがない。
- 賃貸契約書に、部屋で性行為をすることも、友人を呼ぶ数を制限することも規制されていない。
- 騒音が迷惑になることは理解しているので、友人を呼ぶのは昼間の時間にしている。
クレームを出した翌日に回答も想定外ですが、理路整然とした文章に、事前に十分準備していたことがうかがえます。
まぁ大家の気持ちとしては“屁理屈野郎―――”と怒鳴りたい気持ちですが、法律論的には“ただの個人の嗜好”という屁理屈です。
これは本人と直接会うしかないと覚悟を決めて、乗り込むことを決めました。
現場に乗り込み直接対決
“撮影日は火曜日”という情報を得て、その日に本業の有給をとり現地に乗り込みました。
確かに事前調査の白い車がアパートの前に止まっています。
共同玄関のカギを開け、中に入ると、その段階で多くの人の話し声とセクシーな声が聞こえます。
これは想像以上だと思い、意を決して、問題入居者の部屋の呼び出しボタンを押します。人の話し声が一気に静まるものの誰も出てきません。
何度押しても出てこないので、紙に「私は本アパートの所有者かつ賃貸人であること。先日来、交信している件につき協議したいのでやってきたのでドアを開けてほしい。」と書きドアの下の隙間から部屋の中に入れました。
ほどなくして、ドアが開きました。
出てきた人の名前を確認すると、確かに問題入居者である星野さん(仮名)でした。
その奥に何人いるかはわからないのですが、6人以上の人影が見えました。
玄関に大量の使用済みのティッシュが大きなゴミ袋に無造作に入れられており、それが一層生々しさを見せつけます。
さあ、対決です。
「星野さん(仮名)、依然文書で警告したにも関わらず相変わらず、ア○○トビデオの撮影をしているようですね?玄関から入りましたが大きな声・音がし、周囲にもかなり迷惑をかけているようです。明確な契約違反であり、契約解除事項にあたりますよ。」
先方は淡々と反論します。
「文書で回答した通り、私は大勢でセ〇〇スしないと楽しめないのです。賃貸契約書のどこに大勢でセ〇〇スをしてはいけないと書いてありますか?こちらはあえてそれでも気を使って昼間にしてるのに、クレームを言われる筋合いはない。」
しゃべり方も事務的で淡々としており、慣れてるなとの印象です。
強気ですね…。
でもひるむわけにはいきません。
「賃貸契約書上に、(環境及び共同生活の秩序および平穏を阻害する行為に)出た場合は即時契約解除となっており、即時解除を申し入れる。」
と伝えました。
先方は相変わらずポーカーフェースを崩さず、
「あのー、シンライカンケイハカイノホウリをご存知ですか?」
聞きなれない言葉にきょとんとなると、まずは法律をよく勉強してから来てくださいと扉を一方的に閉められ、その後開くことはありませんでした。
わざわざ有給をとって乗り込んだのに惨敗です。
信頼関係破壊の法理とはなにか?
その後弁護士の先生とも協議をし、その場で信頼関係破壊の法理について学びました。
信頼関係破壊の法理とは、いくら違反事項に抵触すると無催告で即契約解除と書いてもほとんど意味はなく、賃借人ときちんと協議したうえでないと契約解除できないというなかなか衝撃的なものでした。
判例を見てみます。
「およそ,賃貸借は,当事者相互の信頼関係を基礎とする継続的契約であるから,賃貸借の継続中に,当事者の一方に,その信頼関係を裏切つて,賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような不信行為のあつた場合には,相手方は,賃貸借を将来に向つて,解除することができるものと解しなければならない」(最二小判昭和27年4月25日)
賃貸借契約の解除にあたっては、当事者間の信頼関係が基礎であり、信頼関係が破壊された時に将来に向かって解除できることをうたっています。
また,最二小判昭和28年9月25日では,「賃借人が承諾なく第三者をして賃借物の使用収益を為さしめた場合においても,賃借人の当該行為が賃貸人に対する背信的行為と認めるに足らない特段の事情がある場合においては,同条の解除権は発生しないものと解するを相当とする」
とあり、転貸をしてたとしても、信頼関係の破壊がない限り契約解除は難しいことをうたっています。
今回のケースでは入居者は転貸していない、自分で楽しんでいるだけだと主張しており、ますますハードルが上がります。
また、無催告で即時解除可能と契約書でうたっていても、最一小判昭和43年11月21日によると、
「家屋の賃貸借契約において,一般に,賃借人が賃料を一箇月分でも滞納したときは催告を要せず契約を解除することができる旨を定めた特約条項は,賃貸借契約が当事者間の信頼関係を基礎とする継続的債権関係であることにかんがみれば,賃料が約定の期日に支払われず,契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情が存する場合には,無催告で解除権を行使することが許される旨を定めた約定であると解するのが相当である。」
とあり、いくら契約に無催告解除と書いても、解除要件に該当するような出来事があっても単純に即時解除といかないようです。
本人は、他の居住者に配慮し、平日の昼間のみ、大勢人を入れて楽しんでいる(実際にはアダルトビデオの撮影だと思われるも)と主張しており、無催告解除は難しそうな印象を受けます。
賃貸借契約をいろいろ工夫したり、法的取り扱いを検討しましたが、打つ手なしです。困りました。
最終的な解決
弁護士と相談しているうちに有効打を打てないまま時は過ぎゆきますが、物語は唐突なエンディングを迎えます。
問題入居者が退去通知を出してきました。
「えー!!?!」
うれしい悲鳴です。
後でわかったのですが、どうやら撮影クルーが何らかの事情で逮捕され、ビデオ撮影が継続されず必要がなくなったため、退去申し入れをしたとのことでした。
まとめ
- 賃貸借契約をいろいろ工夫したり、法的取り扱いをいろいろ検討したりしても、居直られたら賃貸人にはほとんど打つ手がない。
- これらのリスクは大家業にはつきものです。リスクに対応する気概を持ち、物件購入する必要があります。