収益物件購入により相続税節税対策になることの基本の仕組みの他、この効果が個人・法人の場合でそれぞれ違いますのでお話しします。
個人の場合は「相続税自体の減額」
個人の相続税対策として資産の評価を下げる方法は単純です。
例えば、個人で現金3億円の資産があるとします。
この現金で相続税評価における借地権割合がC(70%)の地域にある時価3億円の収益物件を購入、建物は1億円、土地は2億円だったとしましょう。
そして、建物は評価額を一応そのまま、土地の相続税評価額が更地で1億5千万円だったとした場合、この物件の相続税評価額合計は以下のとおりとなります。
土地:1億5千万円×貸家建付地割合79%=118,500,000円
建物:1億円
合計:228,500,000円
現金とのギャップは3億円-228,500,000円=71,500,000円となります。
つまり、3億円の現金を時価3億円の収益物件に変えて持つだけで、相続財産が7千万円強評価減されたということになります。
相続税の最高税率55%が適用される人だった場合、これによって得られる節税効果は
(3億円×55%)-(228,500,000円×55%)≒39,325,000円
と、4千万円近い節税効果が得られることになります。
購入を借り入れで取得してもこの効果は同じです。借り入れの場合はローン借入残高は相続税評価上は債務として評価されますから、債務控除として相続財産から差し引くことができます。
この物件をフルローンの3億円で購入したとすると、相続税上の物件評価額228,500,000円との差が約7千万円あり、この分は負債となりますから、他の資産と相殺することができます。
収益物件の場合、ローンは賃料から返済していけばよいのはこれまでに何度も別記事で説明しているとおりです。
ただ、注意したいのは団信に加入している場合、相続発生時、つまり死亡時に借り入れがなくなってしまうために相続財産を減らす効果が得られない点です。
この場合、ローン負担のない不動産となってしまうために、不動産の相続税評価分についてはプラスの財産が増えてしまうということになります。
相続発生直前に物件を買うと…?(個人の場合)
尚、個人の場合は相続発生(つまり死亡)直前に物件を買っても大丈夫です。
ただし、この場合税務調査において税金逃れと認定されないための注意点があります。それは以下の点です。
- 本人の意思で契約すること
- 決済は本人が行うこと
- 登記も本人名義で行うこと
以上の行程まで相続発生前に本人が終わらせなければなりません。
また、相続発生直前に購入した収益物件を、相続が終わったからといって相続後・相続税納税後にすぐに売ってしまうということも、税金逃れと認定されて後から追徴課税を受けてしまうケースがあります。
仮に相続税節税のために、相続発生直前に収益物件を取得する場合は、「購入時点から」一定期間は自分でその収益物件を保有しておく必要があります。
相続税申告までの期間は相続発生(死亡時点)から10ヶ月です。
更に、標準的な税務調査期間は過去3~4年ですから、最低でもおおよそ4年~5年は持っておく必要があると考えられます。
法人の場合は「自社株の評価減」
法人の場合、収益物件の取得によって財産評価額を下げることが可能です。
中小企業のオーナー社長の場合、自社株を保有している場合がほとんどでしょうし、相続財産の中で自社株が大きな割合を占めている場合も多いでしょう。
後継者に事業を引き継ぐ場合もこの自社株の評価を下げて税金を抑えることは非常に大切です。
法人においても収益物件の取得により、時価と相続税評価額のギャップを利用して財産評価額を下げることは可能です。
このマイナス分をプラスの財産である自社株の評価額と相殺することで相続税上の財産額の評価減につなげるわけです。
更に、収益物件を購入すれば減価償却費を計上できるため、それによって更に利益を減らすことも可能です。
ただ、法人の場合1つ気をつけていただきたいことがあります。
それは、法人が収益物件を取得した場合、購入後3年を経過しなければ相続税評価の基本通りの路線価評価ではなく、実際に購入した価格で財産額を評価されるということです。
相続発生直前に収益物件を購入しても、節税効果は得られないというわけです。
尚、この点は法人と個人で異なります。
個人の場合は収益物件を購入したその日から相続税評価の基本通りの方法で評価されますから、すぐに節税効果を得ることができます。
まとめ
- 収益物件の購入により個人の場合は相続税額そのものを減らすことができる
- 相続発生直前に物件を購入すると税金逃れとされる場合もあるので注意
- 法人の場合は相続発生直前に物件を購入しても、物件購入後3年間は購入価格で評価されるので、計画的な取得が必要