不動産投資における節税手法・法人

会計事務所に長年勤務し、現在は不動産投資で生計を立てる筆者が、法人で不動産投資を行う際、必須となる節税手法を徹底的に解説します。
法人では、節税手法と呼べるような工夫できるポイントは実はあまりありません。何故なら、法人はそもそも利益追求を目的とする組織なので、支出した費用のほぼすべてを経費(法人税では損金)に落とせるからです。
しかし、役員給与は大きな節税ですし、制度上認められている特別償却や税額控除などの節税もあります。また、その他にも福利厚生費などを経費に落とす細かい手法もあります。
また、法人では特別に経費を否認する制度があるので、該当しないように注意することも大切です。基本的には個人の場合より税務調査が入り易くなるので、税務調査対策も念頭に置いておく必要があります。
本稿では、これらについて素人でもプロレベルの節税手法が分かるように解説します。

役員給与による節税のポイント~所得税の税率と手続きに注意

役員給与による節税の仕組みと効果については、本サイトの「法人化して不動産投資を行うメリット前編」にまとめられています。本稿では、こちらに記載されていない点について解説します。
まず、役員給与を支払って節税する場合、役員給与による所得分散が節税になるのは何故かという点をよく考えるべきです。所得税は住民税と合わせて15%~55%の累進税率であるのに対し、法人税の税率はほぼ約30%であり、法人税率の方が低いので個人から法人に収入を付け替えるために法人を設立するわけです。ですから、役員給与という形で個人に戻してまた高い税率をかけられてしまうのでは、まったく節税になりません。

そうならないために、役員給与による節税をする場合、元々収入の高い人に給与を支払わないようにするということと、所得の総額が法人税率との分岐点である30%ライン=695万円を超えないようにするということ、に注意を払う必要があります。ただし、695万円というのは課税所得のことであり、給与所得には概算控除があり、その他所得控除や基礎控除もあるので、収入が給与のみで配偶者1人、16歳以上の子供1人という人ならば、1000万ぐらいの給与収入までは個人に付けても問題ないと言えます。
また、役員給与を支払う場合、その手続きに大きな落とし穴があるので要注意です。役員給与は、一年に一回、定時株主総会時にしか変更できないとされています。そのため、役員給与の支払額を変更する場合は、法人の事業年度の期首から3カ月以内に変更し、一度変更した金額はいっさい、一年間変更できません。これは、増額についても減額についても同様です。そして、支払額は定期同額給与、すなわち毎月同額の給与しか認められません。

ただし、源泉所得税の納付の特例を届け出ている場合は、個人における節税の稿でも解説したテクニックが利用できます。つまり、納付時期の7月10日と1月20日に合わせて、期首から3カ月以内と組み合わせて、役員給与を支払う時期を延長することも可能です。しかし、法人の場合は税務調査が厳しめにみられることが多いので、未払の定期給与をこの時期にまとめて支払うという形態はリスクもあると考えてください。

役員給与を支払う場合、賞与の支払いにも手続的にポイントがあるので、要注意です。源泉所得税の納期に合わせて、上半期の収入と連動し賞与の金額を決定するのはNGです。役員賞与は、事前確定届出給与と呼ばれ、経費(損金)に落とすためには事業年度の期首から4カ月以内に予め、支払う役員と時期、賞与額を届出なければなりません。届け出た内容と少しでも異なった事実が発生した場合、その役員賞与は否認されることになります。

これらの制限は、役員でない場合は適用されないので、それでは給与を支払いたい親族を法人の役員にしなければいいと思いますが、これにも法人税法にはみなし役員という独特の規定があるので要注意です。

【法人税法のみなし役員】

  • 同族会社(持株割合上位第三順位までの株所有割合が50%超)の使用人で次の要件のすべてを満たす者
  • 上位第三順位までの株主グループ(6親等以内の血族及び3親等以内の姻族)のいずれかに属している者
  • 属する株主グループの株所有割合が10%超
  • 株所有割合が5%超(ただしその配偶者と関連会社を含む)

このみなし役員規定は複雑怪奇なので、簡単な具体例を挙げますと、オーナー社長75%、社長の兄20%、社長の子5%という株所有割合の法人(社長以外はすべて職制上従業員)があったとします。この会社は、すべて同じ親族の株主グループによって株が所有されている(50%超)同族会社です。まず、上記みなし役員の条件①は、全員が満たします。②の条件も全員が満たしています。これは、全員が同じ株主グループに属しているからです。③の条件は社長の子以外の株所有者が満たします。ここで、さらに注意しなければならないのは、社長の奥さんは株を所有していなくても①から③の要件をすべて満たす、ということです。これは③の条件で本人と配偶者の所有割合を合算する規定があるからです。

従って、親族に給与を支払う場合、株を所有していない人に支払うこと、奥さんはいかなる場合も役員扱い、ということに留意すべきと言えます。

福利厚生費の最大化

法人の場合、領収書さえあればほぼすべての支出は経費に落ちます。しかし、領収書のない支出、さらに言えば実際に資金流出のない費用を経費に落とすことも可能です。それは主に、役員や従業員に係る実費に相当する手当になります。ここでは、福利厚生費という括りで説明します。

第一に、通勤手当です。役員や従業員が法人の事務所まで通勤するのに要する交通費を、実際に支出していなくても、通勤手当として支払ったということにすれば、経費に落とすことができます。勿論、通勤手当を受領したことが分かるようにしておくことが必要です。不動産投資法人の場合、役員や従業員は親族がほとんどでしょうから、現金で渡したということにして領収書や精算書にサインを貰っておくとよいと思われます。通勤手当の金額は、一般的には電車・バスなどの公共交通機関の合理的な運賃(ただし、月10万円が上限)になりますが、自転車・自動車通勤とした場合、国税庁では経費に落とすことのできる限度額を定めています。電車の通勤定期券料金と比較して、多額な方を選択するとよいでしょう。

通勤距離片道2キロ未満 なし
通勤距離片道2キロ以上10キロ未満 4,200円
通勤距離片道10キロ以上15キロ未満 7,100円
通勤距離片道15キロ以上25キロ未満 12,900円
通勤距離片道25キロ以上35キロ未満 18,700円
通勤距離片道35キロ以上45キロ未満 24,400円
通勤距離片道45キロ以上55キロ未満 28,000円
通勤距離片道55キロ以上 31,600円

第二に、出張手当です。これも役員や従業員が業務の関係で出張した場合、実費に代えて出張手当を支払ったということにすれば、経費に落とすことができるのです。役職別の日帰り日当、宿泊日当の目安金額は以下の通りです。なお、出張する場所の勤務事務所からの遠近と、その場所の都市の経済事情によって手当に差を設けるのが通常でしょう。一般的には勤務する事務所から100キロ以上出張する場合に出張旅費を支給するのが通例となっています。また、出張手当を落とす場合、出張旅費規程という社内規程を作成しておく必要があります。作成の方法はここでは省略します。

役職 日帰り日当 宿泊日当 宿泊料
幹部職員 2,000円~3,000円 4,000円~6,000円 12,000円~16,000円
中間管理職員 1,000円~2,000円 2,000円~4,000円 7,000円~12,000円
一般職員 700円~1,000円 1,500円~2,000円 6,000円~8,000円

第三に、食事手当です。これには条件があり、①支給を受ける本人が食事代の半分以上を負担していること、②支給額が月3,500円以下であること、③現物支給であること、の3つの条件を満たすことが必要となります。ただし、残業食事代として現物支給する場合、全額経費化が可能となります。これ以外に午後10時以降の現金支給を認める規定もありますが、不動産投資法人の場合、あまり現実的ではないでしょう。他の手当支給条件も、現物支給が前提となるので飲食店以外で購入した領収書を残すことが前提であり、その金額の50%を逐一計算して経費化していく作業が必要になります。ただし、領収書については、福利厚生費関係では、あくまでも従業員の私的消費の支援という目的の経費であるため、出金伝票だけで良しとされるケースも多いです。そうすると、実際の支出は伴わないことになりますが、手間の割には節税効果がそれほどないので、食事関係の領収書をそのまま会議費や交際費として経費化してしまうことが多いです。しかし、その領収書が役員や従業員に関する食事代と見なされた場合、この食事手当の規定から外れる部分には、源泉所得税を課税されるリスクがあることになります。

この他にも、役員の自宅が持家である場合、社宅として借り上げ、家賃を支払って経費化する方法があります。この場合、家賃は近隣同条件の相場で設定し、一割程度は役員から徴収する必要があります。ただし、当然のことですが、支払を受けたオーナー側に不動産所得が発生するので、その増税分にも配慮する必要があるでしょう。

法人にのみ認められる優遇税制の活用

法人には、個人と異なり幾つかの政策的な優遇税制が認められています。ここでは、その中で不動産投資法人にも活用できそうな制度をピックアップして紹介します。
第一に、特別償却という減価償却費用を特別に増額して認める制度があります。この制度は基本的に租税特別措置法という時限的措置ですので、毎年の税制改正で不動産投資に活用できそうな特別償却制度の導入がないかどうか、確認することをお薦めします。具体的には、平成26年度の税制改正で、耐震基準適合建物等の特別償却という制度が一年間限定で導入されました。平成26年4月1日から平成27年3月31日までの間に、耐震基準に適合する目的で建物の改修工事などを行った場合の費用は、向こう5年間25%の増額償却を認めるというものでした。ですから、この期間に該当工事を行って、かつ申告した法人は、平成29年においても特別償却が認められていることになります。当時該当工事を行っていても、申告をしていない法人は適用できないので、今からゼロベースでこの制度の適用を受けることは不可能です。

第二に、物件を譲渡し、かつその資金で新たな物件を購入した場合限定の優遇税制になりますが、特定資産の買換え特例という制度があります。これは厳密には、個人の場合も認められますが、個人では事業用という点に制限がかかります。具体的には、既成市街地等から既成市街地等外への物件の買換え、あるいは、10年以上の長期保有物件の買換え(地域は問わない)の場合、譲渡益の80%の繰延べを認めるという制度です。ちなみに既成市街地等とは、以下の地域になっています。ただし、この利益部分は、買い替えた資産の取得価格から差し引くことになるので、結果として減価償却費が少なくなり、将来の税金が高くなるという仕組みになっています。

【既成市街地等】

  • 東京都23区、武蔵野市、三鷹市の特定区域
  • 神奈川県横浜市・川崎市の特定区域
  • 埼玉県川口市の特定区域
  • 大阪府大阪市、守口市・東大阪市・堺市の特定区域
  • 京都府京都市の特定区域
  • 兵庫県神戸市・尼崎市・西宮市・芦屋市の特定区域
  • 愛知県名古屋市の特定区域

第三に、雇用者給与等支給額が増額した場合の税額控除制度があります。これも特別措置法になりますが、平成29年現在、ゼロベースで適用可能な制度です。具体的には、前期と比較して雇用者へ支払った給与額が一定割合以上に増加した場合、増加分の10%相当額を法人税額から控除できるというものです。法人税額から直接差し引けるため、節税効果はかなり高い制度ですが、不動産投資法人の場合は大きな問題があります。それは従業員は親族であるケースが多いということです。雇用者には役員の親族は含まれません。親族の範囲も6親等までは親族とみなされますので、従兄弟までが対象となりますから、ほぼ該当してしまうと言ってよいでしょう。赤の他人などを新しく正社員で雇用した場合限定で利用できる制度と言えます。

法人に限り特別に経費を否認する制度

法人に限って特別に経費を否認する制度には、上述の役員給与を否認する制度の他、交際費の損金不算入制度があります。

交際費の損金不算入制度は、交際費の種類によって2つに分かれています。飲食費と飲食費以外の交際費です。飲食費以外の交際費には、接待、供応、慰安、贈答のために支出する費用とされているので、関連する費用が含まれると考えてよいでしょう。ただし、従業員のための費用(慰安旅行など)や広告宣伝費に該当するものは除外されることになっています。飲食費には、1人当たり5000円以下の飲食費は含まれません。ここで、交際費に含まれない費用は、経費に落とせるということになります。ですので、経理実務としては、なるべく交際費という勘定科目で仕訳しないようにしましょう。特に1人当たり5000円以下の飲食費を交際費から除外するには、一般的な領収書、レシートに記載している事項以外に、飲食の相手方の氏名とその関係、参加人数が必要とされています。レシートであれば人数は印刷されていることが多いので、相手方の氏名と関係を記録しておけばよいことになります。レシートの裏に直接書いておくとよいと思います。

交際費に該当しないための工夫をして、それでも交際費に該当してしまった場合、飲食費であれば、50%を超える金額が否認されることになり、飲食費以外の費用であれば、800万円を超える金額が否認されることになります。ただし、飲食費であっても総額が800万円を超えてしまったら超えた金額は否認されます。

税務調査における注意点

法人の場合、個人よりも税務調査に入られるリスクが高くなります。ですので、複式簿記による記帳をしておくことは必須ですが、法令に則った会計処理、税務処理により注意する必要があります。
不動産投資法人の場合、最初にチェックされるのは減価償却を正しく処理しているかどうかという点でしょう。「不動産投資における節税・個人」の稿で、減価償却資産を建物附属設備に振り分ける工夫について説明しましたが、法人でも勿論この方法は活用できます。しかし、振り分ける元となった工事内訳書を保存していなかったり、振り分けの計算方法を説明できなかったりすると、否認されることになります。また、法人の場合、少額減価償却資産に該当しない30万円以上の修繕費用であっても、修繕費と主張して支出した年度に経費化する特例があります。それが、60万円未満基準と、取得価格の10%以下基準です。修繕費か資産計上かが不明の場合、このいずれかに該当すれば、支出した年度に経費化できる可能性が高くなります。ただし、30万円の少額減価償却資産基準と異なり、修繕費か資産かが不明の場合に限っての適用のため、明らかに資産に該当する場合はこの基準は適用できません。その判断はプロでも難しいのですが、たとえばシステムキッチンを丸ごと取り替えたというのであれば、明らかに資産計上です。60万円未満基準などを適用する余地はありません。キッチンの場合、レンジフードのみの交換、あるいはビルトインコンロのみの交換の場合は明らかに資産とは言えないので、この基準を適用できることになります。より大きな問題となるのは、一棟物の外壁塗装や防水工事などで数百万単位の支出が発生した場合です。この場合も、建物と一体化した費用であり、建物に新たな付加価値を付けるものでもないため、修繕費か資産かが不明です。そこで、建物の取得価格の10%以下基準を適用して判断することになります。

次に、収入面で未収家賃を計上しているか、も重要なチェックポイントです。入居中であるのに家賃の支払いが滞っていたり、あるいは退去後で滞納家賃の回収ができていない場合であっても、原則は未収家賃として収入に計上しなければなりません。回収できない家賃分の減額は、貸倒損失という経費として計上するのが税務、会計の慣行になっています。そして、貸倒損失に計上するには、回収できないことが明らかである場合が条件となっています。具体的には、滞納されてから一年以上経過して連絡が取れない、あるいは弁護士に取り立てを依頼しても支出倒れになって割に合わない、などの条件が必要と言えるでしょう。税務調査においても、このような貸倒損失に計上した理由を説明できるようにメモなどを残しておくべきです。

また、役員や従業員などの個人と法人間の取引も税務調査のポイントになります。役員と法人間の取引は、第1項で説明したように、役員給与として経費計上するにはかなり厳格な条件があります。これらの条件をきちんと満たしているかが、チェックポイントになるわけです。もし、条件を満たしていないと判断され役員給与が否認された場合、否認された分の利益にかかる法人税が追徴されるほか、役員に支払われた金額は役員貸付金と見なされます。そして、役員貸付金とされると、その貸付金に認定利息が付与され、その分の収入も法人の収入とされ、法人税が追徴されます。利息の利率の目安は、市況にもよりますが、概ね2%~3%前後と思われます。さらに、第2項で触れましたが、従業員に支払った費用がある場合、給与に該当するのではないか、ということがチェックされます。食事代の補助には厳しい条件があることは説明した通りですが、たとえば、作業服代なども職員に支給されるタイプでなく、個人が購入したものを補助しただけとなると、給与とみされる可能性が高くなります。給与とみなされると、経費として否認されるわけではありませんが、源泉所得税が追徴されることになります。

これらの他にも、大きな金額の経費があった場合は、合理的な説明ができるように準備しておくべきです。最もよくある例は、高級車の計上でしょう。不動産投資法人に、数千万単位の高級車を経費計上するには、相当特別な理由が必要と考えられます。物件の管理や業者回りなどで利用するだけならば、普通乗用車で十分だからです。例えば、要人を接待することが日常的に生じるような事業であるとか、そもそも高級車のリースを事業にしているなどのケースでなければ、経費としては認められない可能性が高いです。そして、このような資産の購入経費が否認された場合は、役員貸付金というよりは役員賞与とみなされる可能性が高くなります。否認された分の利益の法人税のほか、賞与としての源泉所得税が追徴されることになります。

まとめ

法人での節税は、役員給与による所得分散と福利厚生費の最大化が大きなポイントと言えます。
役員給与によって所得分散する場合、給与を受け取る役員の所得税率と、給与を経費に落とすための手続きに留意する必要があります。手続きのポイントは、給与金額の変更は、事業年度の期首から3カ月以内、役員賞与を落とす場合は、期首から4カ月以内に事前確定届出給与の届出を提出すること、になります。また、役員の配偶者は会社と全く関係がなくても自動的に役員とみなされるので注意が必要です。

福利厚生費の最大化するには、通勤手当と出張旅費をうまく活用することがポイントになります。交際費については、法人の場合特別に否認する制度があるのでなるべく該当しないように処理すべきと言えます。
税務調査では、減価償却費、未収家賃、法人個人間取引に注意する必要があります。