相続税対策として収益物件を利用するためには

相続税は平成27年1月の税制改正で増税され、基礎控除額が4割減額されて課税対象者が増加し、最高税率の55%までの引き上げにより課税額も増えています。
相続税を納税するために資産を処分しなければならない事例も見られるようになっています。
収益物件を活用することでこのように重い相続税の負担を軽減できる可能性がありますので、その仕組みを紹介します。

収益物件購入が相続税対策となる仕組み

収益物件を購入することで相続税額を減らせる仕組みを一言で言うと「時価と評価額のギャップを利用する」という点にあります。

土地は「一物四価」と言われるように、下の表のとおり四つの価格が併存しています。

【土地の「一物四価」の仕組み】

以上のとおり、現行制度の中では、相続税評価額や固定資産税評価額等の土地価格は、基本的に地価公示・地価調査による公示価格にぶら下がって評価されています。
では、公示価格は何のためにあるのかというと「土地の取引の指標」「不動産鑑定士が鑑定評価を行う場合の規準」等の目的を与えられています。

その一方で、時価は買主・売主の間の交渉で成立する価格です。一応、取引価格の「指標」として公示価格を参照すべきとはされていますが、民法上の契約自由の原則がありますから公示価格に縛られる必要はなく、時価は買主・売主の交渉で自由に決めてよい価格です。

ここで、既にお判りになられたかと思いますが、現金で1億円を所有していると、相続税課税の際の評価において現金価値は額面がそのまま評価されますから、1億円がまるまる相続資産として評価されます。

しかし、その現金で時価1億円の土地(仮に1,000㎡、100,000円/㎡とします)を購入した場合、相続税路線価の評価額が70,000円/㎡とすると、この土地の相続税評価額は単純に70,000円/㎡×1,000㎡=70,000,000円と評価されます。

差し引き3千万円の評価額の減額となります。
このように、時価が相続税評価額を上回っている限り、現金で持っているよりも不動産を購入した方が評価額が低くなるので、節税になるというのが収益物件を購入して相続税を節税する仕組みです。

尚、収益物件は土地上の建物を賃貸することで運営します。このような場合、専門的には土地は「貸家建付地」という類型に区分されます。
収益物件以外の土地の相続税評価額は基本的に更地としての価格ですから相続税路線価に地積をかけた額になりますが、収益物件(貸家建付地)の場合、以下のように更地よりも土地の評価が下がります。

【貸家建付地の評価割合】

表の借地権区分は、国税局の財産評価基準書における、その地域の標準的な借地権割合のことです。
この借地権割合に応じて、貸家建付地の評価は更地価格に上表の割合をかけて評価されます。

最初の例の土地が借地権割合D(60%)地域に所在していたとすると、
70,000,000円×82%=57,400,000円
と評価されるわけです。

当初の現金1億円から見たら、実に42,600,000円の評価額減少となります。

相続税対策として検討すべき物件


収益物件購入による相続税の節税の基本的な仕組みは以上のとおりですので、これをご理解いただければ相続税対策として検討すべき物件がどのようなものであるか、お分かりいただけるかと思います。

それは、時価と相続税評価額のギャップが大きいほど良いということになります。
もちろんこれは見方を変えると「公的評価から見たときに割高感のある物件」とも取れます。
つまり、時価と相続税評価額のギャップが大きければ大きいほど購入価格は高くなるわけですから利回りが十分か、キャッシュフローは回るかという点を注意深く検討しなければなりませんが、理屈の上ではこうなります。

時価と相続税評価額はそんなに違うものなのか、相続税評価額、ひいては公示価格はそんなにいい加減なものなのかと思われる方もいらっしゃるでしょうから、この点について少々説明します。

東京都や大阪府等の都心部を中心に、景気の良いときは土地の取引価格は相続税路線価の3倍、4倍の成約物件が多くなるのはざらです。
その反対にリーマンショック後等の景気が悪い時には相続税路線価の7割、8割程度の成約が多くなりました。

公示価格は制度上同一ポイントを毎年継続して評価し、公示価格を表示しますのであまり急激に価格を上げたり下げたりはしにくいという事情があります。
その一方で、市場で成立する売買価格(=時価)は、一回性の契約です。売主・買主がその不動産を売りますよ・買いますよという合意があり、価格についてお互いが納得したならその時点で取引が成立し、引き渡しをすればおしまいです。
そのため、公示価格はどうしても後追いになりやすいという面も有しています。

更に、収益物件であれば基本的にどの程度の賃料が取れるかという観点で売買されますから、そもそも価格評価の前提がやや異なる面もあります。

いずれにせよ、相続税評価額と時価は別物である、と考えるのが収益物件の購入により相続税を節税するための考え方です。

纏め

・土地は「一物四価」と言われるように、同じ土地が様々な尺度で評価される
・収益物件の購入により、時価と相続税評価額の差を利用して相続税を節税することができる
・収益物件の土地は「貸家建付地」となるので、更地よりも相続税評価額は下がる
・相続税節税に役立つ物件は、「時価と相続税評価額のギャップが大きい」物件
・裏を返すと公的価格から見て割高感のある物件ともいえるので、利回り・キャッシュフローの検討は慎重に