不動産投資における節税手法・個人②

会計事務所に長年勤務し、現在は不動産投資で生計を立てる筆者が、個人事業で不動産投資を行う際、必須となる節税手法を徹底的に解説します。

第2回では、最も肝となる部分である、不動産所得の経費計上の方法として、直接経費と間接経費の計上の仕方を説明したいと思います。

第1回目は下記になりますのでまだ読んでない人は宜しければこちらもをお読み下さい。

不動産所得の経費に計上できる経費の種類は決まっています。一般には物件にかかる修繕費や光熱費、保険料、税金など、一定の経費しか計上できないと思われていると思います。しかし、所得税法のルールを知って、ルールに沿ったテクニックを使えば、他にも計上できる経費が数多くあるのです。

不動産投資における節税手法・個人①

 直接経費と間接経費

不動産投資における節税手法・個人第1回において、事業的規模(5棟10室)になると、間接経費と給与等を計上できるメリットがあると説明しました。

そこでここでは、間接経費とは何なのか、直接経費との違いを説明します。

分かり易くずばり言うと、間接経費は直接経費以外の経費ということになります。つまり、直接経費の意味を把握することが重要になります。直接経費は、物件に直接かかる経費のことであり、正確には、収入に紐づいている経費ということになります。具体的には、冒頭で例示した、修繕費、水道光熱費、保険料、租税公課、借入金利子、管理費が対象となります。修繕費、水道光熱費については説明不要と思いますが、租税公課、借入金利子、管理費については若干の説明が必要です。

租税公課は、主に物件の固定資産税になります。他には、賃貸用物件の取得時に課された不動産取得税、個人事業税を納めている場合は個人事業税も経費計上可能です。他には物件契約にかかる印紙代もここに含まれ、経費にできます。しかし、自宅物件にかかるこれらの税金や、所得税や住民税は経費計上できません。また、細かいところでは、もし物件の固定資産税の支払いが遅れ、延滞税が課された場合、その部分は経費にできません。

借入金利子は、物件購入時やリフォーム時の借入金の利息になります。借入金元金の返済は経費にできないのは無論のこと、土地購入にかかる借入金利息で赤字になった場合、他の所得と相殺できないという規定があります。医師などの高額給与所得者で、給与所得との相殺を考えている場合は要注意です。また、3項で詳しく説明しますが、賃貸併用住宅など、賃貸用以外の借入金利息が含まれている場合は、賃貸用の部分を事業用割合によって按分して経費に落とすことが必要になります。特に、賃貸併用住宅で居住用部分の借入金について住宅ローン控除を利用している場合が、最も注意すべきケースです。

【賃貸併用住宅】
居住用部分70%(住宅ローン控除は元金総額×70%)
賃貸用部分30%(不動産所得借入金利子は利子総額×30%)

管理費については、第三者の事業者や法人に支払っている場合には、全額計上するのみでほぼ問題ありませんが、親族に支払っている場合、あるいは管理人などを直接雇用して給与として支払う場合は、給与を支払う側に所得税を源泉徴収して納付することが義務付けられているので注意が必要です。源泉所得税の納付は、原則翌月の10日までとされていて、特例の届出を提出すると、半年ごとに7月10日と1月20日に納めればよいことになっているのは、不動産投資における節税手法・個人①で解説した通りです。親族に支払う場合は、月額8万8千円未満ですと源泉所得税を徴収しなくて済むので、節税目的の給与支払いはこの金額以内に収めるケースが多いと言えます。

さて、本題の間接経費ですが、上記直接経費以外の費用で、具体的には、事務所賃借料、水道光熱費(事務所分)、通信費、交際費、旅費交通費、給与(事務、経理など)、新聞図書費などが該当します。具体的な計上方法、すなわち計算の仕方については3項で説明しますが、事業的規模になった場合、事業としての経営や事務にかかる費用をいかに経費に計上するかが節税のポイントになります。不動産賃貸業は事業ですから、事業として事務所が必要になれば、その事務所にかかる賃借料や水道光熱費が経費にできますし、事業に利用した電話代、ネット代は通信費に計上できますし、業者を接待したりしたとなれば、交際費も計上できることになります。同様に、物件管理や物件調査にかかる旅費交通費はもちろん、投資家仲間と旅行に行った旅費交通費なども経費に落とせる可能性が高いと言えます。

直接経費の節税~減価償却費の前倒し

具体的な節税方法として、まず直接経費の節税方法を紹介します。直接経費は、1項で説明したように物件に直接かかる経費であり、基本的には支払った金額をそのまま経費に落とすことができます。従って、工夫する部分がないため、節税方法はあまりないのですが、一点大きな節税方法として、減価償却費を前倒しする方法があります。

ここで、減価償却費を再度説明すると、減価償却費とは建物などの固定資産の取得、修繕にかかった費用を、税法で決められた期間に振り分けて経費化していく制度です。元々は費用収益対応原則に従って、収入(不動産所得であれば賃貸収入)に対応する期間に経費化しようとする狙いがあります。木造なら22年、鉄骨造なら47年と決められています。しかし、中古物件を購入したり、修繕費は内装のみというケースが多いため、必ずしもかかった費用が、決められた期間の収入に対応しているとは言えない場合があります。また、減価償却費は、金額的に経費の中でも大きな部分を占めますから、計上した期間の利益に大きく影響し、それによって支払うべき税金が左右されることも少なくありません。不動産投資家であれば、将来何年後には新規物件を購入するという計画を立てていることもあるでしょうから、その目標に向けた資金計画や、購入時に経費がかさみ利益が圧縮されることが分かっていれば、それまでに減価償却費を使い切り、各期間に効率よく経費を計上して節税しようというタックスプランニングもできるのです。このように、減価償却費を前倒しして利益調整することは、節税テクニックの王道と言えます。

中古物件の減価償却期間の短縮計算方法については、本サイトの「中古物件で減価償却費を工夫する」に詳しく解説されているので、ここでは省きます。

後者の、修繕費は内装のみというケースで、減価償却期間を前倒し調整する方法について解説します。ちなみに、外壁の塗装や屋根の葺き替えといった外装の修繕の場合、建物と同じ減価償却期間に従うことになり、この方法は利用できません(ただし、その場合でも中古物件の短縮計算は利用できます)。分かり易くするために、簡単な内装の明細例を用意しました。築古戸建ての和室+キッチンを、和室を洋風に変更し、仕切りを可動式にして広めのダイニングキッチンとし、クロスはすべて張替え、システムキッチンを新品にするといった内装工事のイメージです。

和室洋室変更大工工事 一式 150,000円
クロス張替工事 一式 300,000円
可動間仕切り設置工事 一式 200,000円
カーテンレール取付工事 一式 50,000円
システムキッチン入替工事 一式 300,000円
諸経費 100,000円
合計 1,100,000円

まず、最も一般的な処理は、合計の総額110万をそのまま建物とする処理です。そうすると、減価償却費も建物の耐用年数で計算することになり、22年をベースに中古の耐用年数計算式に従って計算することになります。

本題の減価償却費を調整する処理ですが、大きな手順としては、各工事費用を、建物附属設備という建物より短い耐用年数を利用することとされている資産別に振り分ける処理を行います。建物附属設備に振り分けられる資産というのは、その工事内容によって税法で決められています。一般的な不動産投資で利用できると考えられる主なものは、次の通りです。

給排水(キッチン、風呂)、衛生(トイレ)、ガス設備 15年
昇降機設備(エレベーター) 17年
ドアー自動開閉設備 12年
可動間仕切り 簡易なもの 3年

つまり、上記の内装リフォーム工事の例であれば、可動間仕切り設置工事、システムキッチン入替工事がそれぞれ、給排水工事、可動間仕切り簡易なもの、に該当することになり、それぞれ定められた耐用年数による減価償却が認められることになります。具体的な計算方法ですが、①諸経費の按分計算、②少額減価償却資産判定、③資産区分判定、という流れになります。以下、具体例をこの手順に沿って計算していきます。

諸経費の按分計算

按分計算は、諸経費を諸経費以外の各工事の費用の比に応じて按分していくことになります。よって、以下のように計算します。

和室洋室変更大工工事 150,000+100,000×150,000/1,000,000=165,000
クロス張替工事 300,000+100,000×300,000/1,000,000=330,000
可動間仕切り設置工事 200,000+100,000×200,000/1,000,000=220,000
カーテンレール取付工事 50,000+100,000×50,000/1,000,000=55,000
システムキッチン入替工事 300,000+100,000×300,000/1,000,000=330,000

少額減価償却資産判定

諸経費按分後の各工事の費用が、少額減価償却資産に該当するかどうか判定します。10万円以下のものは、少額減価償却資産として、支出した年に全額を経費計上できることになります。少額減価償却資産は、必ずこれを適用して経費しなければならない、という性格の規定ではないので、翌期以降の経費に繰り延べてもよい場合は、②の手順を飛ばし、③に行っても構いません。この事例では、カーテンレール取付工事が55,000円で10万円以下ですから、少額減価償却資産に該当することになります。

資産区分判定

諸経費按分後の各工事の費用が、その工事の内容によってどの資産に区分されるかを判定します。この時点で初めて、先ほどの建物附属設備の区分を利用するわけです。この事例では、可動間仕切り設置工事220,000円が、「可動間仕切り 簡易なもの」に該当し、耐用年数3年が適用可能となります。そして、システムキッチン入替工事330,000円は、「給排水設備」に該当し、耐用年数15年が適用可能となります。そして、元々の設備が中古設備の場合は、その設備の入れ替えにも中古の耐用年数が適用されますから、給排水設備は、15年に対して中古の耐用年数の簡易計算を適用できると考えてよいでしょう。

上記①から③の手順で、残った工事費用(本事例では、和室洋室変更大工工事165,000円と、クロス張替工事330,000円)は残念ながら建物とみなすしかありません。当初取得した建物の中古耐用年数を適用することとなります。

青色申告の場合には、少額減価償却資産の限度額が30万円まで上がりますが、厳密には租税特別措置法という時限的な緩和措置なので、その都度確認した方がいいでしょう。また、同様に青色申告の場合には、20万円以下の減価償却資産を一括償却資産として扱い、3年で均等償却することもできます。いずれの場合においても、手順②で判定し、資産区分判定は行わないことになります。

 間接経費の計上方法~事業用割合による按分

間接経費は、最も節税テクニックが問われる経費です。以下では経費の種類ごとに計上方法を解説しますが、いずれの場合においても肝となるのは、支出した費用をいかに合理的に、不動産賃貸事業用の支出と生活のための支出(家事関連費)との割合を計算し、それぞれに按分するかという点になります。

事務所賃借料

居住地は別個に事務所を賃借している場合には、賃借料全額を賃貸事業用の経費として計上して問題ないでしょう。もちろん、実はセカンドハウスとして居住している、という場合は経費にできないと考えてください。経費計上は、あくまでも現実の実態があることが基本となります。

自宅として借りているマンションの一部を事務所としている場合、賃借料の一部を事務所賃借料として経費計上したいときは、その事務所使用のスペースの面積による按分が最も一般的です。たとえば、50平米の2LDKを10万で借りていたとしましょう。LDK以外に6畳2間があり、そのうち1部屋の6畳間=約11平米を賃貸事業用の事務所として使用していたとします。この場合、10万×11/50=22,000円を事務所賃借料として経費計上できることになります。このように、面積按分する場合には事務所スペースの面積分が原則になり、居間や風呂、トイレなどの生活との兼用スペースはカウントできないと考えてください。

もう一つ、そのマンションを事務所として利用していた時間をカウントして時間按分する方法もあります。この場合、一週間7日×24時間=168時間のうち、仕事をする時間は5日×8時間=40時間が通常ですから、10万×40/168=23,800円を事務所賃借料として経費計上することになります。当然、サラリーマンとの兼業大家などで、事務所で作業する時間が少ない人であれば、その時間に応じた賃料しか計上できません。会計事務所の実務では、おおまかに30%を按分計上するケースなどもありますが、自分で申告する場合はすべて自己責任になりますので、自分で合理的に根拠付けられない割合で計上するのは止めた方いいでしょう。

水道光熱費(事務所分)

これは、①で賃借料を計上した事務所にかかる水道光熱費を計上するといった認識でよいでしょう。①と同様、賃貸事業用の按分計算が必要となるのは自宅一部を事務所としている場合ですが、水道光熱費は部屋別に分けるわけにもいきません。①で説明した作業時間割合で按分するのが合理的と言えます。通常であれば2割~3割程度の水道光熱費を計上できると見込まれます。

通信費

これは、ネット回線利用料などの事務所にかかる通信費の他に、携帯電話の通信費があります。事務所にかかる通信費は作業時間割合で按分すればよいでしょうが、携帯電話の通信費はどのように按分すればよいでしょうか。携帯電話は明細を印刷してそれぞれの通話時間を算出することも可能ですが、なかなかそこまでの労力を割くケースはありません。通常の作業時間割合から5%~10%程度差し引いた割合で按分計上するケースが多いと言えます。仕事用の携帯を持っていれば、その通信費は全額計上できるわけですから、そうするのがスマートかも知れません。

旅費交通費

ここで按分が問題となる旅費交通費は、自家用車のガソリン代などを計上する場合です。鉄道やタクシーなどの場合は、実際に賃貸事業に利用した交通費分を計上すればよいだけでしょう。自家用車のガソリン代は按分が難しいですが、通勤や買い物などにしか利用しない自家用車であれば、一年の走行距離を記録しておき、そこから通勤、買い物にかかる走行距離を差し引き、その割合を使うという方法もあります。計算し易い走行距離から事業用に利用した走行距離を求めるのです。しかし、この方法も自家用車を使って頻繁に旅行や帰省に出かけたりする人には向きません。

交際費

交際費については、通常の会食などであればほぼ認められるでしょう。按分から論点が外れますが、問題となるのは支出した日付です。年末年始やお盆休みなどに事業用の会食をする人はほとんどいません。このような日付の支出は経費から外した方がリスクが低いと言えます。

間接経費の計上方法~従業員給与、専従者給与の利用

最後に、間接経費のうち、給与計上による節税について説明します。給与を計上する場合、源泉所得税の徴収に気を付けなければならないことは1項で既に説明しました。給与計上については、これに関連して利用できる節税テクニックと、注意点があります。

まず、源泉所得税の納付は特例の届出を提出すれば年2回、7月10日と1月20日に半年分まとめて納めることが認められているという話をしました。これを利用した節税テクニックとして、給与の支給額を源泉所得税の納付時期に合わせて決定する、という方法があります。不動産賃貸業の収入は家賃収入ですから比較的安定した収入源を持つ事業と言えますが、それでも退去があったり、滞納があったり、と言った不測の事態もあります。こういった事態に備え、毎月の給与額を抑え気味に支給し、源泉所得税の納付時期に不足分を賞与という形式で支給するようにすれば、資金繰りの不安もないし、利益調整による節税もうまくできるというわけです。大多数の企業が、賞与を6月と12月に支給するのは、源泉所得税の納付時期に合わせているから、という理由もあると言えます。

また、専従者などの親族であれば、毎月の支給額もその時期に決め、一気に支給するという方法もあります。多少リスクはありますが、現金支給であれば記録は残りませんし、預金で支払ったとしても帳簿上は毎月確定していた未払給与をまとめて精算したという処理をすれば、まず問題にはなりません。ただし、専従者給与の場合は、予め届出た給与額の範囲内で支給することと定められており、それを超えて支給すると否認されることになります。超える場合には、給与額の変更届をまた提出することになります。

節税にならない支出

よく保険を節税のためにかける人がいますが、個人の場合、民間の生命保険はあまり節税なりません。これは、所得税の仕組みを考えればすぐ分かりますが、個人の生命保険料は、家事用の支出として生命保険料控除の対象となりますが、その控除限度額は12万円とされている上、一定の算式により実際に支払った保険料から控除額とされるのは4分の1~2分の1程度になります。しかも、生命保険料控除は所得控除ですから、実際に安くなる税金はさらにこれに税率を乗じた金額になります。ですから、年間48万円以上生命保険料を掛けている人は全く節税になっていないと言えます。また、生命保険料控除は、一般型、個人型、医療型の3種の区分で限度額が4万円ずつと決められているので、これらの種類区分別の掛金を意識することも重要です。

ただし、一つだけ、社会保険料控除と同様の取扱いがされる生命保険があります。それが、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営する小規模企業共済です。生命保険というよりも老齢保険のような扱いで、経営者が退職あるいは廃業時に積み立てていた掛金が支払われるというものです。掛金が社会保険料と同様に全額所得控除される上、受取時の返戻金は退職所得扱いとなるので、退職所得控除の適用がなされ、受取時の税金もかなり少なくなります。貯金を積み立てているだけなのに、積立額が経費になり、しかも受け取る時には優遇税制があってほとんど税金がかからないことを考えれば、節税メリットはかなりあると言えます。

しかし、これらの保険料はあくまでも一定の長期間外部に資金を流出させてしまうものであることに留意すべきです。不動産投資は、借入などによってむしろ外部から自分のところに資金を集め、それを高利回りの不動産によって長期間運用してその運用益を収入源とする事業です。不動産投資を生業とする人間ならば、長期間資金を外部に流出させて多少の節税をするぐらいなら、その資金を自分の裁量で不動産に投資して運用益を稼ぐべきなのではないでしょうか。保険は他者に資金を運用させるための商品であり、その運用利回りは不動産投資の利回りと比較すると限りなく小さいということを念頭に置いておくべきと考えます。そこまで理解した上で、それでもリスク分散のため保険に投資するというなら小規模企業共済に投資するのがよいでしょう。

まとめ

  • 個人の不動産賃貸業の経費は、物件に直接ひもづいた費用である直接経費とそれ以外の間接経費があります。
  • 直接経費にかかる節税は、減価償却費の前倒しの工夫に尽きると言えます。そしてその方法は、中古耐用年数の利用と資産区分への振り分けの2つがありました。資産区分への振り分けは、共通経費の振り分けと建物附属設備の見極めが肝になっていました。
  • 個人の不動産賃貸業の経費計上による節税の最も重要なテクニックである、間接経費の計上は、賃貸事業用の支出をいかに合理的な計算で按分抽出するか、という点が重要です。事務所賃借料を面積按分する方法、水道光熱費を利用時間按分する方法などは合理的で利用価値が高いのでぜひ押さえて利用すべきと言えます。
  • また、個人の場合保険は節税にならないので原則加入は避けるべきです。

 

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