近年、都心の高級タワーマンション購入による相続税の節税が話題となっています。本稿では、タワーマンション購入が節税になる仕組みと注意点、平成29年度税制改正による影響を解説します。
- タワーマンション購入による相続税節税の仕組み
- タワーマンション購入による相続税節税の注意点
- 平成29年度税制改正による影響
- 今後のタワーマンション購入節税
必見の仕組みや注意点の解説
1. タワーマンション購入による相続税節税の仕組み
タワーマンション購入による相続税節税の枠組みは、被相続人の存命中にタワーマンションを購入して相続財産を相続税の財産評価上目減りさせ、相続税の確定納付後に売却することによって現金化して資産を取り戻す、というものです。つまり、タワーマンションの相続税の財産評価と市場価格との歪みを利用して節税するという仕組みです。
マンションは、土地と建物に分かれ、それぞれ、土地は路線価、建物は固定資産税評価額で財産評価されて相続税が課されます。概ね、路線価は時価の80%、固定資産税評価額は時価の40%~60%になっています。加えて、タワーマンションの場合、高層建物であるため、必然的に時価に占める建物の割合が大きくなり、固定資産税評価額で評価される価格の割合も大きくなります。そして、土地についても戸数が多いため、一戸当たりの持分も少額になり、土地の割合も一般的なマンションよりも小さくなる傾向にあります。特に、マンション敷地内に公園や公衆用道路などが整備されている場合、その敷地部分を除外して算定することも可能であるため、より評価額が下がることになります。また、従来、固定資産税額は全体の固定資産税額を床面積で均等に按分し算定するという方法であったので、市場価格の高い高層階は固定資産税評価額との乖離が大きくなり、節税効果が高いという仕組みでした。
2. タワーマンション購入による相続税節税の注意点
実は、国税庁の財産評価通達では、「著しく不適当と認められる評価額は国税庁長官の指示を受けて評価する」という規定があります。すなわち、上記1で説明したような財産評価が相続時に必ずなされるという保証はありません。たとえば、国税不服審判所平成23年7月1日裁決の事例では次のように判断されています。
平成19年8月に被相続人はタワーマンションを2億9300万円で購入、同年9月に死亡しました。その後、タワーマンションを相続した相続人は、平成20年7月に同マンションを2億8500万円で売却した、という事案です。相続人は、このタワーマンションにつき、相続時の財産評価は通達に基づき、土地建物合わせて5800万円として相続税申告をしました。これに対し、国税当局は取得価額である2億9300万円で評価するのが相当であると主張し、不服審判所もこれを認めました。
このように、タワーマンションの財産評価が著しく不適当であると認められるケースでは、時価で評価されてしまうことになります。
こうした国税当局による更正処分を受けないために注意すべきことは、最低限、①被相続人が元気で本人の意思が明確なうちに購入すること、②代理人や後見人でなく、被相続人自らが購入取引をすること、③相続したタワーマンションの売却は相続税申告後まで行わないこと、が必要であると言えます。
ただし、これらの注意点に留意していたとしても、タワーマンションの購入が当局によって節税目的であると認められれば、更正処分を受ける可能性も残ります。これを回避するには、タワーマンションの購入の目的は、節税以外の目的、すなわち中長期の財産運用目的であったと説明することができる合理的な事実が必要と言えます。国税当局に説明を求められたときに、タワーマンションには誰が住んでいたのか、使用頻度はどれくらいなのか、あるいは賃貸用に供していたのか、という具体的な運用計画を示すことができることが重要になります。
3. 平成29年度税制改正による影響
平成29年度税制改正により、タワーマンションの階層の違いによる時価に配慮し、固定資産税額も、高層階ほど負担額を増額することとなりました。具体的には、高さが60メートルを超える超高層建築物のうち、複数階に住戸が所在しているものについては、一棟のタワーマンションに係る固定資産税額を按分する基準となる各専有部分の床面積を階層別専有床面積補正率によって補正する、というものです。補正率は、階層が1階上がるごとに、税額按分の基準となる床面積を約0.26%大きくなるように設定されています。これによって、タワーマンションの20階は1階の10%増し、30階は1階の20%増しぐらいの固定資産税額となります。平成30年以降購入分から適用になります。
タワーマンションの場合、高層階と1階の市場価格の差は3倍~5倍ぐらいとされており、固定資産税評価額の増額によって高層階の財産評価が上がったとしても、なお、財産評価額と市場価格の乖離は大きく、節税メリットはかなりあると言えるでしょう。ただし、2で述べたように、国税当局による監視の目も厳しくなっていることと併せて考えると、今後タワーマンションを相続税節税のためだけに購入しようという需要は減って来るかも知れません。
4. 今後のタワーマンション購入節税
今後のタワーマンション購入による相続税の節税は、その市場価額と財産評価との乖離を利用するのではなく、小規模宅地等の特例や貸家建付地の評価減を利用した節税にシフトしていくと考えられます。小規模宅地等の特例とは、被相続人自己居住用であれば400平米までの居住用宅地につき80%、または貸付事業用であれば200平米までの宅地につき50%評価減を認めるというものです。ただし、建物部分にはこの特例の適用はありませんので、建物価格割合の大きいタワーマンションの評価減には、これだけでは不十分です。ですので、貸家の評価減(通常30%減)を併用することになるでしょう。これによって、土地部分については80%減、建物部分については30%減が可能になります。さらに、固定資産税評価額が市場価格の60%ぐらいであることを加味すれば、実質的にはすくなくとも土地部分については80%減、建物部分については50%減の財産評価が可能になるでしょう。
既に不動産コンサルティング会社の中には、タワーマンションを賃貸用に貸し出すサービスをコンサルティングする会社が現れています。
しかし、これらの相続税の節税は、タワーマンションに限らず、不動産全般に適用できる節税手法です。そして、これらの手法を適用するには、相続税法における特例の適用要件を慎重に検討する必要があります。タワーマンション節税のメリットは、このような煩雑な手間をかけなくても、購入しただけで相続税の財産評価が極端に下がること、と、売却時にほとんど価値が落ちず、また迅速に現金化できること、にあったはずです。同様に、現金を不動産化して財産評価を下げる節税手法を採用するのであれば、一棟物のアパートを購入するなど、他の不動産を購入する選択肢も考慮に入れるべきと言えます。
まとめ
タワーマンション購入による相続税節税の仕組みは、市場価格と相続時の財産評価の基準になる固定資産税評価額との乖離を利用したものです。近年では、国税当局の監視強化や税制改正の影響もあり、節税目的のみでタワーマンションを利用することは難しくなって来ています。今後タワーマンションを節税目的で利用するには、他の不動産の購入も選択肢に入れて、メリット、デメリットを比較衡量した上で、小規模宅地等の特例や貸家の評価減などの相続税の財産評価制度を利用し、より慎重かつ効率的な判断が求められると言えます。