【新米宅建士へのアドバイス】境界石がない境界(山林や農地の調査)

境界の話について、あまり扱う機会はないかもしれませんが、山林や農地についてお話しします。
はっきりとした境界石があるのはほとんどの場合は市街化区域内の既存宅地です。
山林や農地の場合、はっきりとした境界石が現地にない場合も多くなっています。
しかし、このような場合にも所有権の及ぶ範囲は存在しているため、なんとかして確認しなければなりません。

山林の公図の問題点

公図は明治の地租改正の時期に作られた図面を基にしており、素人が縄等で測量していたため精度に問題があるということを公図の解説でお話ししました。

このことを考え合わせると、山林は面積も膨大ですし(場合により、1筆で数十万㎡という土地もあります)、正確な測量がなされた上で公図が整備されたとは考えにくいものです。
実際に、山林の公図は明治の作成当初、縄による測量が行われず、更には現地踏査(歩測)による測量も行われず、境界を直接確認しないまま作成されたものも多くなっています。
そのため、公図上の地番境がそのまま所有権の境であるということも信頼性はより低く、更にそもそも境界が直線なのか曲線なのかということも必ずしも信用ができないと言われています。

地租改正は「土地の価格を税金の基準とする」ものであったため、林業等を営んでおらず収益が全く上がらないような山林の場合、面積の過少申告をすることが横行したと言われています。
そのため、現在において山林の登記簿や公図を取得した上で、測量士等による実測図を現地実査の上で作成してもらうと、実測面積は登記簿上の面積に比べて数倍以上大きいというようなケースも珍しいことではありません。

このため、山林の公図については慎重に取り扱う必要があると言えます。

山林の境界表示方法

山林では、境界石によって所有権境を明示しているところもありますが、境界石ではない方法で境界を示していることもあります。
その代表的な方法の一つが境界木と言われるものです。
これは、杭の代わりに樹木を用いているケースです。法的な規定で例えば「境界木としては○○の木を植えなさい」という規定は一切存在いないので、どの木が境界木になっているかはまちまちです。
例えば、一面の杉林の中に境界木として一本だけ桧が植えられているというように、目印になるように周辺の木とは異なる種類の樹木が植えられるケースが多くなっています。
ここで何の木を境界木とするかはその地域の慣習で決められているようなケースが多いので、山林を扱う場合は売主や周辺住民に境界木の種類を確認しておくことが必要になることもあります。
この境界木は山林だけではなく、農地の境界を示すためにも使われることがあります。

その他、山林の所有権境を明示するために使われる方法として、「そもそも所有権の境において、植えられている木を変えてしまう」という方法もあります。
お隣の土地は杉を植えているので、自分の土地は桧を植えて桧林にしてしまうというようなケースです。
これも判例上立派な「境界の表示方法」として認められています。

その他、山林であれば沢や尾根、谷、水路等、自然の地形が所有権境として利用されていることもあります。

農地の境界表示方法

農地の場合、畦畔(けいはん、と読みます)が境界を示す目印とされていることが多くなっています。
畦畔と書くとやや硬いイメージですが、田んぼと田んぼの間のあぜ道をイメージしてください。

ただし畦畔が境界を示しています、と言っても、畦畔も一定の幅を持っているので、どの点が境界になるのか知っておかなければ分からないということになります。

これは自分の農地と隣の農地との間に高低差がある場合とない場合で分けて考えるのが一般的です。

高低差がない場合は畦畔の中心線が隣の土地との境界を示すものであるとして考えるのが通常のケースです。
高低差がある場合は、一般的に畦畔は「高い方の土地に属するもの」と考えられています。そのため、境界は畦畔の低い方の端にあるものとして考えられるのが通常です。
このように考えられる理由として、「ある農地と隣接する農地の間に高低差がある場合、畦畔は高い方の農地を支える機能を持っている」と考えられているためです。
低い方の農地の所有者に畦畔の所有権があるとして、切土してしまわれたら高い方の農地が崖になって畦畔を通れなくなってしまう可能性もあるから、というようにイメージしておいても良いでしょう。
【高低差がない場合の境界イメージ】

【高低差がある場合の境界イメージ】

ただし、これらの畦畔による境界は一般論で、その地方ごとに違う決め方をしている場合があります。
その地方に特有の慣習(例えば高低差がある場合は畦畔の高い方の端が境界になる等)がある場合はそれに従いますので、十分ヒアリングして確認しておく必要があります。
また、山林の項目でもお話ししましたが、境界木によって境界を表示している場合は農地であってもそれに従います。

纏め

  • 山林の公図は目測によるものも多く、形状も公図上の地番境もあてにならないことがある
  • 山林では境界木(目印として一本だけ違う樹種の木を植える)や隣地と植えられている樹木の種類を変えることで境界を表示しているケースがある
  • 農地では境界木の他に、畦畔によって境界を表示していることがある