不動産投資における節税手法・基礎編

家賃収入という限られた収入に依存している不動産投資において、いかに無駄な支出を削減するか、が重要になります。

そして、その最大の課題が税金の支出を抑えることであると言えます。

特に個人の場合は、法人の場合と異なり、経費の計上方法に制約があるため、注意が必要です。無闇に計上すると、税務調査が入ったときに過去に遡って否認され、追徴課税ということにもなりかねません。

ここでは、会計事務所に長年勤務していた筆者が、税理士に依頼しなくても素人でもプロの節税手法ができるように基礎から解説します。

税金のかかる所得と一般的な利益の違い

巷でよく聞く話だと思いますが、税金のかかる所得と一般的な利益は違います。

一般的な利益というと、手元に残るお金のことを指すと思いますが、これは会計の世界ではキャッシュ・フローと呼ばれ、税金のかかる所得計算上はもちろんのこと、銀行などが財務評価の対象とする決算書でも通常は利益として扱いません。

決算書や税金のかかる所得計算において利益とされるのは、収入から経費を差し引いた金額となります。理論的には、収入は物品販売であれば引渡しが完了した時、役務提供であれば役務提供が行われた時、にその対価を収入として計上するのが原則になります。

そして、経費については、債務確定基準と費用収益対応原則と言って、契約などによって支払いが確定した日に収入に対応する部分だけ計上することになります。

不動産投資の場合では、収入は家賃収入がメインとなりますから、これは居住の用に供するスペースの提供が行われた時、つまり、入居完了日に初めて収入計上というのが原則です。

ところが、入金の慣行は前家賃一カ月分を前月末までには受け取るというのが一般的ですから、手元に残るお金だけで計算すると、この前家賃だけは常に多い状態になります。したがって、税金のかかる所得を計算する時には、現金収入から前家賃分を差し引いて計上することになります。

そして、もし未収家賃があった場合も、同様の考え方をします。つまり、実際にお金を受け取っていないが、居住用スペースの提供が行われている以上、家賃収入を受け取る権利が確定していると考え、税金のかかる所得計算上は収入に計上することになります。

不動産投資で計上する経費については、詳細な中身については別途稿を改めますが、現金払いと異なるのは、まずは、債務が確定したものを計上できるので、クレジットなどの未払いのものも、購入契約日には計上できることになります。そして、長期に渡って前払いしているような費用は、全額を計上せず、費用収益対応の原則により一年分のみを経費に計上することになります。たとえば、数十年分の保険料を前払いする損害保険料などがこれに当たります。

それから、不動産投資で特に気を付けなければならないのが、減価償却費の計上です。税金のかかる所得の計算上、建物などの固定資産については、金額が大きいため、収入に対応する部分だけ、一定の耐用年数の期間に割り振って経費計上することとされています。この耐用年数は、税法で定められているので基本的に自由に変更はできません。

しかし、色々と工夫することで、耐用年数の期間を短くして一年間に経費に落とす金額を大きくすることが可能になります。これも別途稿を改めて詳しく解説します。また、固定資産の中でも、土地については基本的に経費に落とすことはできません。これは購入後、価値が減らないものと考えられているからです。ただし、売却時には、売却した収入から購入時の価格を差し引いて利益を計算し、実質的に経費に落とすことが可能になります。

そして、意外と知らない方も多いですが、借入金の元本返済部分も、経費にはなりません。借入金は借り入れたときも収入にならないので、単純に預かったものを返しているだけで、何ら収益には影響しません。ただし、利息部分だけは、多く支払っている部分ですので、経費に落とすことができます。

しばしば、キャッシュ・フローと決算書の税金のかかる所得との差額は、

キャッシュ・フロー=税金のかかる所得+減価償却費-借入金元本返済

と表されます。

税金のかかる所得と手元に残るお金の違いを最も単純化して表した計算式になりますので、覚えておくと便利です。

また、これに前受家賃などの前受収益、未収家賃などの未収収益、クレジットなどの未払費用、保険料などの前払費用を考慮すると、次のようになります。

キャッシュ・フロー=税金のかかる所得+減価償却費-借入金元本返済+前受収益-未収収益-前払費用+未払費用

ここまで知っておくと、決算書に表示された税金のかかる所得と、実際に手元に残るお金の違いをほぼ正確に把握することができます。

 帳簿の付け方・証憑の保存の仕方

次に、帳簿の付け方ですが、今は会計ソフトが充実しているので、メジャーなものを一つ購入してそれに入力しておけば、記帳の条件を満たす場合が多いですが、個人事業主向けの安いプランなどは要注意です。

また、不動産投資などは、スモールビジネスや副業的なスタンスで始める方が多いでしょうから、少しでも無駄な出費は避けて、記帳も無料のエクセルソフトなどで済ませたい、という場合は、税金の申告に必要な記帳の条件を知っておくことが重要になります。

まず、基本的な帳簿には、現金の入出金を記録する現金出納帳、預金の入出金を記録する預金出納帳があります。これは、どんな場合でも用意するのが基本です。

それから、売上帳という売上の記録管理の帳簿を付けるのですが、不動産投資の場合は、不動産収入一覧表で代用することが多いです。不動産収入一覧表は、例えば下表のように作成します。部屋(契約)ごと、月ごとに入金した家賃の一覧を記録する表で、下表では省略しましたが、できれば入金日も記載しておいた方がいいと思います。

また、不動産投資の場合は、物件を貸してその対価として収益を得るのですから、物件の資産台帳も用意するのが普通です。これは、減価償却資産内訳書あるいは減価償却費明細書などと呼ばれる、税金の申告に利用する書類として作成する場合がほとんどです。減価償却費というのは、建物などの固定資産の取得に要した費用を、税法で決められた年数に従って、数年~数十年にわたって配分していく経費のことを言います。

減価償却資産内訳書は、この計算の中味の詳細を記録した帳簿ということになります。例えば、下表のような形式になります。この例の、建物Aの減価償却費の計算方法を簡単に説明しておくと、3000000万円で取得した建物の支出を、4年間にわたって均等に期間配分して経費に落としていくことになります。今期の経費=償却費は、3000000×0.25=750000となっています。そして、期末残高は、3000000-750000=2250000となり、この2250000が翌期以降に建物Aの帳簿価格として繰り越されていくわけです。

これで、基本的な帳簿は作成できました。その後は、個人と法人で作成しなければならない帳簿の形式が異なるので、3項で解説します。

また、証憑(領収書や請求書、レシートなど)は、原本を帳簿と併せて保存しなければならないとされています。PDFなど電子データ化も認められるには認められるのですが、税務署に届出なければならないなど手続きが面倒なので、基本的には紙のまま保存することになります。その際、帳簿のデータと照合し易い方がいいので、時系列で白紙に貼付け、あるいはクリアフォルダーなどに月ごとに分類などするのが一般的です。

個人と法人の節税手法の違い

2項で、現金出納帳、預金出納帳、家賃収入一覧表、固定資産台帳の帳簿が必須ということをお話しました。

それでは、いわゆる決算の際もこれらだけで足りるのかと言うと、残念ながらそこまで簡単にはいきません。最低限、損益計算書という書類を作成しなければならないので、収入であれば、不動産収入、経費であれば、管理費や水道光熱費、租税公課、保険料などの各科目ごとの集計表が必要になるのです。これらをいつ、いくら、誰から入金したか、あるいは支出したか、という内訳をすべて記録、集計する表が必要であるのが原則です。ただし、損益計算書のみを作成する場合は、上記の現金出納帳などの帳簿に、いつ、いくら、相手先については記録してあるので、月ごとの数値の集計などで事足りるでしょう。

ただし、法人の場合は、各科目ごとに一取引の内訳をすべて記録して集計することが必要になります。これを総勘定元帳と言います。なぜなら、法人の場合(個人で青色申告65万控除を利用する場合も同様)は、貸借対照表という期末時点での資産と負債の明細表を作成する必要があり、損益計算書と貸借対照表を両方作成するには、複式簿記によることが必須とされるからです。上記の出納帳等の集計だけでは、前受けや未収、前払いや未払いなどの経過勘定、あるいは減価償却の仕訳などを必ずしも把握できないからです。

ですから、理論的には、現金出納帳、預金出納帳を作成していれば、現金、預金以外のこのような仕訳を記録し、資産、負債の明細の集計までの方法を明確にしておければ、良いと言えます。しかし、税務調査においては、総勘定元帳の提出を求められるのが一般的であり、貸借対照表を作成するには、市販の会計ソフトを用いるのが現実的でしょう。

さて、本題の、個人と法人の節税手法の違いの話ですが、個人と法人では、このような帳簿の作成以前の根本的な前提の違いが節税に大きく関わってくることになります。それは、法人は事業を行うための組織なので、事業に関するお金の流れしか存在しないのに対し、個人は、事業と生活のための会計という2つのお金の流れが存在することです。

【個人の会計】

 事業:収入―支出

 家計:収入―支出

このように、個人の場合、事業と家計でそれぞれに収入と支出があると考えます。収入については、家賃収入しかなければ、家計の収入は基本的に存在しないわけですが、不動産賃貸業はあくまでも賃貸収入以外は事業収入とみなさないので、不動産の売却収入は家計の収入とみなされ、譲渡所得として全く別の税金計算をすることになります。また、兼業大家さんであれば、給与収入は事業所得とはみなされず、家計の収入である給与所得とみなされることはご存知かと思います。

この他にも、保険金の満期返戻金や、意外なところでは、ふるさと納税の特典なども、家計の収入とみなされ、一時所得として別途申告することになります。そして、節税において最も重要となってくるのが、支出面での家計の存在になります。たとえば、不動産収入には全く関係のない、食費や衣服費、遊興費が家計に該当するのは分かり易いと思います。

しかし、通信費や交通費などはどうでしょうか。物件管理対応の電話代、物件探しの電話代、インターネット代などを、家計と不動産収入の経費とに細かく分けるのは困難です。交通費は、分けられないこともないでしょうが、自家用車を利用している場合は、ガソリン代、車の購入費、税金などはどうやって分けるのか、ということになります。

この場合は、合理的な方法であれば、家計と事業に分けて経費化することが認められています。このように、個人であれば、いかに家計の支出から事業用の支出を分割して経費に落とすか、ということが重要になるのです。

これに対し、法人の場合はすべてが事業用のお金の流れなので、このような節税手法は利用できず、主に役員報酬によるか、減価償却や保険などで税金の繰延べを図ることになります。

まとめ

  • 一般的な利益(キャッシュ・フロー)と決算書の税金のかかる所得との差額は「キャッシュ・フロー=税金のかかる所得+減価償却費-借入金元本返済」で表されます。
  • 不動産賃貸業で必要な帳簿については、現金出納帳、預金出納帳、家賃収入一覧表、固定資産台帳(減価償却内訳書)になります。それぞれの帳簿の付け方を覚えておくといいでしょう。
  • 個人の場合、法人と違って家計が存在するため、家計からいかに事業用の経費を抽出するか、が節税のポイントになると言えます。

 

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