不動産の購入または売却をする場合、多くは仲介業者を通じて行うことになります。
不動産投資を行っていない一般の人は不動産の購入や売却を行うことは一生に一度か二度程度であるのが通常でしょうし、個人投資家の方々でも多くの回数を経験している人は一握りです。
そのため、専門家に任せておけばよいと、不動産仲介業者に任せきりになってしまっていることが多く見受けられますが、不動産仲介業者といえども信用できる業者とそうでない業者がいます。
不動産仲介市場は“不完全市場”である
不動産仲介市場は経済学の観点から見ると不完全市場であると言えます。
では、その反対の完全な市場とは何でしょうか。完全市場とは、主に以下のような条件を備えた市場を言います。
- 供給者と需要者の数が極めて多い
- それぞれの供給者と需要者の力が均等で、価格支配力がない。つまり価格のコントロールはどの市場参加者にもできない
- 全ての市場参加者は市場の情報や商品に対する知識を十分に持っている
- その市場で売買される商品は全て同じもので、差別化されていない
- 市場への参加・退出は自由である
これらの条件を備えた完全市場では、完全に需要と供給によって価格が決まり、その価格決定のプロセスも明確です。(つまり、売主も買主も完全に納得した価格で値段が決まります)
不動産仲介市場の場合、上記の1と5以外の条件は満たしていません。
その理由は不動産という商品が元々持っている性質によるものと、不動産仲介市場で行われているおかしな慣習によるものの2つがあります。
まず、不動産が元々もっている性質として、「位置・形・規模等、不動産は二つと同じものはこの世に存在しない」というものがあります。
例えば、△△市○○町1丁目□□-××という住居表示にある、土地の面積150㎡、木造3階建の延床面積250㎡、築31年の共同住宅、という不動産はこの世にそれしかなく、それ以外のものはありません。
また、土地は動かせない以上、そのままの条件で他の場所に持っていくことも不可能です。
不動産の持つこのような性質のため、不動産仲介市場は上記の完全市場の条件のうち4について見たしていない、そもそも満たすことができないということになります。
ただし、これについては不動産自体が持つ性質によるものであるため仕方がないことであるとも言えます。
問題は、次項でお話しする仲介市場における慣行によって完全市場の条件を満たしていないという状況が生じているものです。
不動産仲介市場におけるおかしな慣行
不動産仲介市場における売主と買主どちらの利益にも結び付かないようなおかしな慣行によって、完全市場の2と3の条件も満たさなくなってしまっています。
では、おかしな慣行とは何でしょうか。
それは以下のようなものだと考えられます。
売主が売り出し価格を決める
現在の不動産仲介市場では、売主が売却希望の不動産を仲介業者に持ち込むことから取引が始まります。
この時問題なのは、売主が仲介業者の意見を聞き、「売り出し価格」をまず決めることです。
本来価格は、売主と買主が他の似たような不動産の価格を十分検討し、価格に関する情報が十分わかった上で、売主と買主の交渉によって決まるものです。
しかし、売り出し価格が売主の方から先に提示されていると、それが売買の最高値となってしまいます。
売主は1円でも高く売りたい、買主は1円でも安く買いたいというのが通常ですから、売買の最高値が先に決められてしまうと、交渉の過程でそれ以上の価格で売れる可能性があったとしても、売り出し価格以上の値段での売買はできないということになります。
相対取引が中心となっている
不動産仲介市場では売主と買主が1対1で交渉する相対取引が通常となっています。
しかも、売主と交渉できる買主は最初に買い希望を申し入れた人であることが多いという慣習が続いています。
宅地建物取引業法では、専任媒介契約を結んだ仲介業者は一定期間内に指定流通機構(レインズのことです)に物件情報を登録しなければならないとしていますが、条件の良い物件は登録義務がある一定期間までの間に買い希望がついて、一般市場には出回らないことが通常です。
そのため、逆にレインズ等に情報が公開されている物件は、欲しがる買主が少ない、いわゆる「出回り物件」等と言われているような状況も生じています。
これを市場原則から見ると、売主から見れば最初に買い希望を入れた買主よりも好条件の買主と交渉する機会が奪われていますし、買主から見れば仲介業者と普段から付き合いがある等で情報が優先的に入ってくるような場合でもない限り、良い物件に巡りあうチャンスが奪われています。
不動産の情報開示が不十分
すでに不動産売買の経験がある方であればご覧になったことがあるかもしれませんが、不動産の情報は通常物件ビラ(マイソクとも呼ばれます)の状態で公開されます。
買い希望を出して交渉に入った場合でも、物件概要書、登記簿謄本、公図・地積測量図・建物図面・住宅地図、レントロール程度の情報が開示されるだけにとどまる場合が多いでしょう。
しかし、不動産には土壌汚染の可能性・埋蔵文化財の有無・建物の性能等、特有のリスクがあり通常開示される程度の情報では価格の検討のために十分なものとは言えません。
情報の非対称性とは?
不動産仲介市場においては、このような慣行によって情報の非対称性が生じています。
不動産売買では高額のお金が動くのに、考えてみればこれはおかしい状況であると言えます。
当然ですが、売主からすれば1円でも高く売りたいために不利な情報、例えば土壌汚染がある可能性がある等については隠しておきたいことが通常でしょう。しかし、安くないお金を支払うことになる買主との後々のトラブルを避けるという意味でも、情報開示は十分に行うべきではないでしょうか。
また、買主についても、物件情報を優先的に得られるのはたくさんの購入実績がある(=その仲介業者に過去たくさんの仲介報酬を払った等)買主に限られ、新規参入の買主が得られる物件情報は相対的に少ないということになってしまっています。
このような情報の非対称性、もっと簡単に言えば情報の不平等によって、売主も買主も価格や条件について十分に納得できないまま交渉や取引をせざるを得ない状態になっている、残念ながらそれが現在の不動産仲介市場の大部分の現実となっています。
纏め
- 不動産仲介市場は情報が十分で、かつ全ての売主・買主が平等な完全市場ではない
- 不動産自体がもつ性質によって完全市場の条件を満たさないものについては仕方がない
- 不動産仲介市場におけるおかしな慣行によって完全市場の条件を満たしていないものについては正していくべきであるが、現実はそうなっていない
- 不動産仲介市場における慣行については十分に知り、対策を考えておくべき
- 情報開示が十分でなく、売主も買主も十分な情報を得られていない場合が多い