収益物件の土地と建物の価格の内訳は、売主と買主の間で取り決め、この合意された金額を契約書に記載することが基本です。
この場合、買主である投資家の側としては、できるだけ建物の価格を多くしておきたいところです。
建物の価格を多くしておけば減価償却費を多く取ることができ、税金対策になるからです。
詳しい減価償却の話や土地と建物の価格の按分方法は別記事で解説していますのでここでは省略し、ここではあくまで売主との交渉が難しいということだけ紹介しておきます。
収益物件の価格の決まり方
収益物件の価格は、「受け取ることのできる家賃収入÷利回り」で決められます。
この考え方は、不動産鑑定士が行う収益還元法の考え方の簡易版ともいえるもので、通常「収益価格」と言われます。
不動産価格の査定方法には他にも、土地の購入費用+建物の残存価値で表す原価法(この価格を「積算価格」と言います)や、同じような物件の売買価格を基に立地条件や環境条件、建物の状況を対象となる物件と比較して決める取引事例比較法(この価格を「比準価格」と言います)等がありますが、投資物件に関しては通常収益価格の考え方で価格が決められ、取引されています。
では、なぜこのような収益価格の考え方で価格が決められているのでしょうか。
それは、「投資物件を買う理由は家賃収入と将来の売却益を目的としているから」です。
やや難しい言い方ですが、要は「その物件を買って、将来売却することによってどの程度の利益を上げられるのか価格で測っている」と思っていただければOKです。
ところで、ここで注意していただきたいのは、収益価格の算出方法では土地と建物それぞれの価格は出てきません。
土地の上に建物が建っている状態のいわば土地建物一体としての状態(この状態を専門的には「複合不動産」と言います)から得られる家賃収入を基に価格を決めているので、収益価格は複合不動産としての価格しか算出できない計算式なのです。
その一方、税務上の申告では土地と建物の価格を分けて申告する必要があります。
土地は減価償却の対象にはなりませんが、建物は減価償却の対象になるので、それぞれいくらなのか、元となる価格を決めておかなければならないからです。
土地と建物の価格は原則売買時にしか設定できない
土地・建物の価格は売買契約書に記載すべき事項ですから、売買契約時点でしか設定することができません。
原則としては売買契約書には「取引総額及びそのうち土地と建物の内訳としての価格」を記載することになっています。
仲介業者の方針等で売買契約書に土地建物内訳価格を記載しない場合もありますが、その場合は売買契約書とは別に売主と覚書等を取り交わし、双方が同意した土地と建物それぞれの金額を明記して記録に残すようにします。
なぜなら、これが税務申告や税務調査の場合の証拠資料になりますから、極めて重要な事項です。
売主が建物価格を多くしたがらない理由
買主は減価償却費を多く取るために建物価格をできるだけ多くしたがるのが通常なのですが、売主は建物価格をあまり多くしたがらない傾向があります。
それは、売主が消費税の課税業者の場合があるからです。
実は、土地建物価格は買主の減価償却費だけではなく、売主の消費税納税額にも影響します。
土地の売買金額は消費税の課税対象にはなりませんが、建物の売買金額は消費税の課税対象になります。
そのため建物の価格を多くしてしまうと、売主はその分多く消費税を取られてしまって手取り収入が減ってしまうのです。
この点が、建物価格をできるだけ多くしたい買主と建物価格をできるだけ少なくしたい売主との間で利益が相反して、なかなか交渉が上手くいかない原因になっています。
しかし、例えば売主が旧来からの個人の地主等で消費税の課税業者ではないような場合は、売主は消費税を納める義務がないため交渉がスムーズに行く場合もありますが、一般的には土地建物価格の決定交渉は難しいと考えられます。
この対策として売主との間で合意した金額以外の土地建物価格の決定方法もありますが、これは別記事で解説していますのでそちらをご参照ください。
建物本体と設備価格も明記しておいた方がベター
無事に売主との交渉がまとまり土地建物価格の内訳が決まったら、建物の本体と設備部分の価格も分けて契約書等に記載しておくとベターでしょう。
建物本体と設備は耐用年数が違いますから(一般に設備の耐用年数の方が短い)、設備部分を分けることによって、1年当たりの減価償却費をより多く取れるようになるためです。
一般的に設備の金額は建物総額の1割~2割程度(もちろん売買直前にリフォームや設備更新等をしていれば上げられる余地はあります)ですが、現在の定額法しか認められていない減価償却制度の下では、より1年当たりの減価償却費を多く取ることを考えて、設備部分の金額を分けて記載するほうが良いでしょう。
纏め
- 投資物件の価格は「収益価格」で決まる
- 「収益価格」では土地建物一体としての価格しか出ない
- 建物の価格割合を多くする方が節税対策上買主には有利
- 売主は消費税が多くなるため建物価格割合を多くしたがらないのが一般的
- 建物価格が決まったら建物を「本体価格」と「設備価格」に分けて記載する方が良い