住宅ローンには様々な種類があり、大きく分けると固定金利型(完済までの全期間固定)、固定金利選択型(当初数年だけ固定・その後変動)、変動金利型(一定期間ごとに金利の見直しがある、通常半年ごと)があります。
住宅ローンを決める時は、どの銀行から借りるかということよりも、返済期間中の返済額と利息と元金を含めた総返済額はいくらになるかということに多くの方が関心があるかと思います。
そのため、住宅ローンのタイプを固定金利にするか変動金利にするかということが大きなポイントになってきます。
固定金利が良いか変動金利が良いかはいくらシミュレーションしても分からない
冒頭からいきなり答えることを放棄するようですが、一言で住宅ローンは固定が良い、または変動が良い、とは言うことはできません。
全期間固定金利型の住宅ローンであれば借入額、返済期間、約定利率、返済方法の4要素が分かれば月々の返済額、完済までの総支払額を求めることができます。
例えば借入額4千万円、返済期間25年の毎月払い(ボーナス払いはせず毎月均等)、借入金利2.5%で全期間固定、返済方式は元利均等返済と分かれば、毎月の返済額は179,447円、ローン完済までの返済総額は53,834,008円とエクセルの関数を使えば算出できます。
これが金利2.0%であれば毎月の返済額は169,542円、完済までの返済総額は50,682,521円です。
そのため、全期間固定金利型の住宅ローンであれば、上記の例では金利2.5%で返済総額53,834,008円、金利2.0%で返済総額50,682,521円ですから、金利2.0%の方が全期間と押すと3,151,487円も得をするという比較ができます(得をするのは当たり前ですが…)。
しかし、変動金利型、もしくは固定金利選択型の住宅ローンでは、将来の金利の変動が分からない限り毎月の平均返済額も、完済までの返済総額も算出できません。
将来、例えば5年後、10年後、20年後の金利がいくらになるかという予想はできても、結局は単なる推測であって、確定ではありませんから分からないのです。
そのため、住宅ローンの総返済額での比較、月々平均返済額での比較といったことができませんから、一概に固定・変動、どちらが良いとは言えません。
結局は「金利変動リスクを貸し手と借り手のどちらが負担するか」
住宅ローンに限らずそうなのですが、金利とは、「貸し手である金融機関側から見た融資の利益分」です。
そして、この金利は需要と供給(借りたい人が増えれば上昇し、借りたい人が減れば下落します)、または日本銀行の金融政策(マイナス金利政策の場合、銀行はお金を持っていると損だから低い金利でも貸そうとするため金利は下がります)等の影響で変動します。
ここで、固定金利と変動金利を比べてみましょう。
現在の金利が1%で、住宅ローンを借り入れたとしましょう。そして、10年後に金利が3%まで上がったとします。
ここで、全期間固定金利の住宅ローンを借りていた場合、10年後に金利が上がってもずっと1%の金利分の利息を支払えば良いことになりますから、借り手にとって得です。
一方、貸し手は本来3%の金利がとれるところ、1%の金利分しか利益を得られないことになりますから、2%分、実質的に損をしていることになります。
この場合、金利の変動リスクは貸し手側が負っているということになります。
一方、同じ条件で変動金利型の住宅ローンを借りていた場合、借り手は固定金利型にしておけば1%の金利で済むところ、10年後には3%の利息を支払わなければならないことになります。
この場合、金利の変動リスクを借り手側が負ったことになります。
もちろん現在の金利が高い場合は将来金利が下がったときに、固定金利の場合は借り手側が損をし、変動金利の場合は貸し手側が損をします。
以上のように、固定か変動化は、結局のところ「どちらが金利の変動リスクを取るのか」ということで、将来の先読みになります。
わかりやすく言うなら現在のように超低金利の状態の場合、将来的には金利が上昇する可能性が高いと言えますから、貸し手側から見ると変動金利の方が得だという考え方が強いのではないでしょうか。
固定金利選択型は後悔する可能性が高い
固定金利選択型住宅ローンは、「最初の数年間は固定金利、その後は変動金利」とする住宅ローンで、全期間固定型と全期間変動型をミックスしたものです。
ただし、私は個人的にはこのローンはあまりおすすめしません。
住宅ローンの返済期間は20年~35年、場合によっては50年等の超長期にわたります。
その間、何が起こるかは誰にもわかりません。今や経済の動きも10年前、20年前に比べると格段に速くなっていますから、5年先の予測も難しいと言って良いでしょう。
そのような状況の中で、固定金利選択型住宅ローンの、当初5年間固定金利2%、その後は変動金利というローンを選択したとしましょう。
5年経過して変動金利に移行した後、金利が1%以下まで下がっていれば、当初から変動金利にしておけばよかったと後悔するでしょう。
反対に、5年後に金利が3%まで上がっていたとしたら、当初から2%で全期間固定金利にしておけばよかったと後悔するでしょう。
固定金利期間終了後、金利が下がっていても上がっていても後悔するのであれば、固定金利選択型住宅ローンは避けておく方が精神的に良いと考えます。
[ad#co-1]執筆時点の状況から見た私見
執筆時点(平成29年7月時点)は日銀の金融政策もあって低金利の状態です。あくまで私見ですが、このような状況ですからもし金融機関の審査が通るのであれば全期間固定金利の住宅ローンを選択することをおすすめします。
以下に、主な銀行の全期間固定金利型ローンの金利等を列挙しておきます。なお、比較するうえでのわかりやすさから、記載している金利はそれぞれの最低金利です。実際は借り手の返済能力や信用力によってこれ以上の金利が設定される場合もあります。
全期間固定金利型(平成29年5月1日時点)
金融機関名 | 返済期間 | 金利(最低金利) |
三菱東京UFJ銀行 | 21年以上25年以内 | 1.18% |
26年超30年以内 | 1.25% | |
31年超35年以内 | 1.31% | |
みずほ銀行
|
21年以上25年以内 | 1.10% |
26年超30年以内 | 1.12% | |
31年超35年以内 | 1.13% | |
三井住友信託銀行 | 30年のみ | 1.05% |
ソニー銀行 | 20年超30年以内 | 1.37% |
住信SBIネット銀行 | 30年固定 | 1.23% |
35年固定 | 1.31% |
全期間変動金利型
※全期間変動金利型は変動幅が大きいため、金利設定例のおおよその稽古うちです。
金利設定水準 | 説明 | |
基準金利 | 優遇金利 | |
2.475% | 0.5%前後 | 公表金利のうち最低水準 |
0.63%前後 | 大手都市銀行等が設定するおおむねの最低水準 | |
0.78%前後 | 地方中核都市等で多い水準 | |
2.5%
~2.9%前後 |
0.88%
~1.28%前後 |
地方金融機関で多く見られる水準。都市銀行等がない地域ではこれが最低水準の場合もある |
3.0%以上 | 1.28%以上 | 一部地銀や信用組合等で見られる水準 |
上の表をぱっとみただけでは変動がつかみにくいかもしれませんが、検討するローンプランがある程度絞られたら、住宅保証機構株式会社がネット上で提供している「住宅ローンシミュレーション(http://www.hownes.com/loan/sim/index.html)」等を利用して、返済総額、毎月の返済額を検討されてみると良いと思います。
ただし、あくまで私見ですが、個人的には現在のような超低金利が5年10年後続くとは予測していません。
現在はかつてあった日銀が一般銀行に貸し出す際の金利である「公定歩合」制度はなくなっており、金利は各金融機関が自由に決められるのが原則ですが、日銀の貸出金利が高くなれば「日銀は金融引き締めを行いたがっている」と一般銀行が考えて、追随して金利水準を引き上げるという効果は依然として残っています。(専門的にはアナウンスメント効果と呼びます)
変動金利型ローンや固定金利選択型ローンを不動産業者がすすめることが多いのは、
「銀行も今の低金利がいつまでも続くとは思っていないから、固定金利では貸したがらないだろう。
(つまり、ローンが下りない可能性が高くなる=物件が売れないから不動産業者の売上にならない)」
と考えているからではないかと思っています。
上の表の通り、変動金利ローンの優遇金利は固定金利より低い水準ですから、変動金利ローンの金利水準が変わらないか、上がってもわずかな上昇との予測にとどめておいて返済総額を試算すると、物件の買い手(ローンの借り手)にも魅力的な数字を作ることは可能です。
物件が売れてしまえば業者はそれで販売手数料が入って商談は終わり、将来の金利変動リスクは買主がとれば良いと考えている業者もいないではないと思います。
そのため、現在の超低金利であればできるだけ固定金利型にした方が良い、というのが私の見解です。
纏め
- 固定金利型、変動金利型のどちらが良いかは将来の金利予測が不可能である以上一概には言えない
- 固定と変動のミックス型である固定金利選択型はどちらにしろ「精神的に」後悔する可能性がある
- 現在の超低金利の状況下で、変動金利型や固定金利選択型のローンを甘い見通しでごり押ししてくる業者には注意すべき