登記簿の読み方等については別記事で解説しますが、登記簿には全ての権利が登記されるわけではありません。
動産登記簿に記載できる権利には、地上権・賃借権・地役権・抵当権・根抵当権等がありますが、これらは所有者の同意を得なければ登記することはできません。
また、登記していない権利も有効とされています。
そのため、土地の調査における土地利用権の調査については登記簿を確認するだけでは不足です。
登記簿に現れない権利の例
不動産に関する権利については、登記簿の内所有権は甲区に、所有権以外の権利は乙区に記載されます。
抵当権や根抵当権の設定登記については、権利者が銀行等金融機関であることがほとんどですから、登記されていないということは通常はないでしょう。
また、抵当権や根抵当権は「土地や建物を所有者が利用することを妨げず、ローン返済が滞ったとき等のための担保として設定する」ものであるため、通常は土地建物の利用に関して何か制限が生まれるといったことはありません。
もちろん売買に当たっては売主が債務者の抵当権登記が残ったまま売買されてしまうと、買主がせっかく買った不動産を競売にかけられてしまう恐れもありますから、売買時にしっかり抵当権の抹消登記を行うように注意する必要はありますが。
その一方、土地や建物につけられた地上権・賃借権・地役権は所有権者による実際の利用の妨げになるものです。
これらの権利は、例えば「土地を貸してあげるからその代わりに地代を払ってください(借地人が土地を利用することになりますので、所有者はその土地を使えなくなります)」というものです。
そして、不動産登記簿にこれらの権利を登記するかしないかは当事者の自由であり、登記されていない権利も有効です。
また登記するにあたっては当事者双方の同意が必要になりますから、大抵の借地の場合は地主が嫌がって賃借権の登記に協力しようとはしません。
これらの権利を見落としていると、取引の後に買主が自由に土地を使えないということになってしまいますから、調査を怠らないようにしましょう。
登記簿に現れない権利を確認するためには
登記簿に現れない権利を確認するためには、例えば以下のような方法があります。
土地の場合
賃貸借契約書
売主(通常は土地所有者であり土地賃貸人でもあるでしょう)の協力を得て、賃貸借契約書を確認するようにします。
しかし、借地の契約の場合、特にかなり昔に開始された借地の場合は当初の契約が口約束でそもそも賃貸借契約書がないということもあります。
所有者と実際に土地を利用している人とに違いはないかに十分注意し、違っていれば賃貸借契約書がなくてもその後現在までに借地権範囲図面による確定や覚書による地代額の改定等の履歴がないか、十分聞き取り調査をするようにします。
地役権図面
地役権図面とは聞きなれない言葉かもしれません。
そもそも地役権という言葉自体が聞きなれない言葉かもしれませんので、おおよそのところを解説します。
地役権の代表例は通行地役権です。通行地役権とは、例えば道路に全く接していない土地の所有者が、隣の道路に面した土地の所有者と話し合って、隣の土地を通らせてもらうために設定する権利を言います(これがあれば無道路地でも建物を建てられるようになります)。
地役権とは、このように「自分の土地の利用のために、他の人の所有地を一部利用させてもらう権利」のことで、通行地役権の他にも例えば高圧線の真下の土地には電力会社の設定した地役権がつけられていることが多いです。
地役権も登記される場合もあれば登記されない場合もあるのですが、登記されていれば法務局に地役権図面というものが備え付けられます。
そのため、法務局で登記や公図を申請する際に、「地役権図面もあればお願いします」と記載しておきましょう。
高圧線の真下の土地等であれば、法務局ではなくその高圧線を管轄している電力会社に地役権図面があるかもしれません。
聞き取り調査
賃貸借契約書等もない、地役権図面もない場合でも、これらの権利は有効です。
そのため、現地調査の際に何かおかしい(例えば調査対象地の上を所有者とは関係ない人が通っている等)と思ったことがあれば、売主や周辺の方に聞き取り調査をしましょう。
売主が相続でその土地を取得したような場合、親の代のことでよくわからないといったこともありますが、重要な事項ですからできるだけ調べてもらうようにします。
建物の場合
建物の場合は通常は土地ほど難しくはないでしょう。
収益物件であればレントロールや賃貸借契約書がそろっているでしょうし、戸建であっても貸家にしている場合はほとんどの場合で賃貸借契約書や覚書を売主が持っているはずです。
敷地の第三者利用があることも
これらの調査を怠ったために問題になったケースを一つ紹介します。
古い戸建住宅が建っていた土地を、建物を壊して更地にして売却した事案です。
買主は新しくマイホームを建築しようとしました。
しかし、建物の基礎工事の際、地面に埋まっていたガスの配管を誤って切ってしまい、ガスが周囲に噴出するという危険な状態になってしまったという事例があります。
これは、取引された土地の裏の土地の所有者が、売主の親と話し合って敷地の中を通して都市ガスを引き込んでいたということを見落としたために起こったトラブルです。
売主から所有者が変わり、買主が新しい所有者になったわけですから、この敷地地下のガス管については撤去してもらうか付け替えてもらうか、改めて敷地の地下を利用する契約を見直すか等といったこともできたはずです。
このようなトラブルは、公的資料の調査や現地調査で分からなくても売主から十分ヒアリングをしておけば防ぐことが可能です。
以上のように、全く取引とは関係ない第三者が土地の一部を利用しているということもありますから、権利関係の調査は登記簿を見て終わり、では不十分です。
纏め
- 登記簿には必ずしもその土地に関係する全ての権利が書かれているわけではない
- 登記簿に現れない権利も十分に調査しておかなければ、取引後にトラブルの種になる
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