※2019年7月更新
木造に限らず、RCや鉄骨でも築古物件については売却するときに建物を残した収益物件のまま売るのと、建物を取り壊して更地にするのと、どちらの方が高く売れるのかという点は頭の痛いところです。
今回、こちらの記事では売却時に建物を取り壊すかどうかの判断基準についてお話しします。
建物を残し、収益物件として売るのが原則
一棟ものの物件を売却する場合、建物を残して収益物件のまま売るか、建物を取り壊して更地にして売るかという2つの売り方があります。
結論から言うと、建物を残して収益物件のまま売る方が一般的です。
理由としてはまず、建物を取り壊してしまうと買い手の減価償却を活用したいというニーズを切り捨てることになり、その需要(買い手)を排除してしまうことになります。
また、建物を取り壊すためには入居者全員に退去してもらう必要があります。レジデンス系投資物件の場合、入居者にとって代わりになる物件はたくさんありますから、理論上は退去してもらうための費用としては「引っ越し費用+入居者が入る次の物件の一時金と仲介料程度+いくばくかのお見舞金」で十分と考えられます。
しかし、入居者全員にこの退去費用を払うというのはオーナーにとってはやはり大きな出費です。
場合によっては入居者全員に次に入居する代替物件を紹介してあげなければいけないというような手間もかかります。更に、建物を取り壊すためには入居者を100%退去させなければなりません。1人でも入居者が残っていると、居住権がありますからオーナーといえど建物を取り壊すことはできません。
このように、建物を更地化すると買い手の減価償却ニーズを切り捨ててしまい、更に非常に多くの費用と労力がかかりますから、一般的にはお勧めできません。
建物を取り壊した方が良い場合
しかしそれでも建物を取り壊して更地化して売却した方が良いケースはあります。
それは土地が広く建物が小さく、賃料収入が少ないケースです。
当初建物が建築された動機が地主の相続対策であるような地方・郊外の物件に多いのですが、このような物件の場合です。
【更地化した方が良い場合のイメージ図】
1,500㎡の土地に500㎡のアパートが建っています。使用容積率は500㎡÷1,500㎡で約33%です。
残っている土地は入居者用の青空駐車場として利用しているケースで、地方や郊外部に行くとこういう物件はよく見かけます。
このような物件は、元々大きな土地を持っている地主さんが相続税や固定資産税・都市計画税対策でアパートを建築したケースが多い物件です。
この物件を売却する場合、土地が広いのですから売買金額に占める土地金額の割合が非常に大きくなります。築古であれば建物価格割合は極端に小さくなるでしょう。
そのため、どのような売り方をしても売買価格に占める建物価格の割合を多くとることはできないのですから、減価償却費を多くとりたいというニーズに応えるには最初から適さない物件です。
更に、賃料収入が少ないことから利回りもおしなべて低く、収益物件としての魅力はさほど大きくありません(青空駐車場部分で十分な駐車場使用料を取れていればまた別ですが)。
このような場合、あまりにも小さい建物を取り壊して更地化してもらった方が買主にとって買いやすい物件と言えます。
建物が建っていれば土地は収益物件の敷地としての利用しかできませんが、更地であれば買主が購入後、土地の広さに対応する建物を建築して十分な賃料収入を得ることもできますし、買主が戸建分譲業者であれば土地を分割して戸建住宅を建てて販売することで利益を得ることもできますよね。
このような場合は建物を取り壊して更地化した方が高く売れる可能性があると言えるでしょう。
尚、この物件の価格は理論上、「更地価格-入居者退去費用-建物取り壊し費用」として計算されます。建物の解体を売主・買主のどちらが行うとしても、取壊し費用は売買金額から引かれるのが通常です。
更地化する際にしなければならないこと
収益物件について、建物を取り壊して更地化するためにしなければならないことは何といっても入居者を全員退去してもらって、物件を空にすることです。
先にお話ししたように、退去費用はそれなりに必要になります。
しかし、早い段階から売却時に建物を取り壊すことを視野に入れているのであれば、入居者と交渉して定期借家契約にしてもらうという方法を採れば、多額の退去費用は支払わずに済みます。
それまでの間の賃料は下げる代わりに定期借家契約にしてほしいという交渉の仕方が一般的ですから、物件を更地化する場合売却までを見据えて長期的な計画を立てなければなりません。
このような物件を買う場合は、購入時から計画を立てて行動する方が良いでしょう。
実は建物を取り壊すことそれ自体よりも、入居者に退去してもらうことの方が費用も労力もかかることですから、早い段階から検討・交渉しておかなければなりません。
尚、更地化して売却すると決めたら、収益物件として建物を残したまま売るという選択肢は排除しましょう。なぜかというと、更地化のためには上記のとおり入居者に退去してもらうことが必要なのですが、これは空室率を自分で高くすることに他なりません。
空室率が高いと収益物件のまま売る際の売却価格は下がりますから、どっちつかずのスタンスは成立しないのです。
【不動産投資】物件売却時、建物を取り壊すかどうか悩んだ時の判断基準。
- 収益物件は建物を残したまま収益物件として売るのが原則
- 更地化した方が良いのは土地が広く建物が小さい、築古物件のケース
- 更地化するためには入居者全員に退去してもらう必要がある
- 退去費用は高額で、更に交渉や代替物件の紹介の労力もかかり、退去してもらうのは簡単ではない
- 更地化して売却すると決めたら、入居者退去により収益物件としての価値は自ら下げることになるので、最後までやり抜く必要がある。どっちつかずは最も損をする