アスベストのリスクについて理解しよう

今回はアスベストのリスクについて紹介致します。

アスベストは吸入すると発がん性や中皮腫の発症リスクがあり、物件購入後にアスベストが発見されると、物件の資産価値が下がったり、売却価値が下がったり、更に物件が売却できなくなったり、また多大な費用をかけアスベストを撤去、または封じ込め等の対策をする必要がでてきます。
REIT等の機関投資家が物件の投資適格性を判断する場合には必ず調査すべき項目として挙げられている物質であり、建築士や調査会社等がチームを組んでデュー・デリジェンスを行うべき対象としてリストアップされています。

そんなアスベストに対して、投資家としてどのように注意すべきかを下述致します。

アスベスト(石綿)の危険性

アスベストとは、一言で言えば繊維状の物質(鉱物)です。

アスベストは高い防音性・耐熱性を持ち、耐摩耗性も良好という性質を有するため、1970年代から1990年にかけて大量に輸入され、その大部分が建築材料に使われたと言われています。

その一方でアスベストの繊維は極めて細いため、研磨機、切断機等の使用や飛散しやすい吹き付けアスベストの状態で、人が行き来する空間に暴露され続けることで、また除去等の作業時にも必要な措置を講じなければアスベストが粉塵状になって飛散し、人が吸入してしまうことになります。

アスベストの粉塵を人が吸入すると、じん肺の一種で肺が線維化してしまう石綿肺、肺がん、胸膜や腹膜の中皮腫等の健康障害が発生することが指摘されています。

しかも、アスベストはどの程度までなら吸い込んでも安全かという、いわゆる閾値ははっきりとした見解は出されていない状況です。

吹き付けアスベスト等がない空間の一般大気中にも存在する物質であるため、大部分の人は毎日息を吸う中でアスベストを吸入しているという状況になっていますが、吸入した濃度が濃ければ濃いほど、時間が長ければ長いほどリスクが高まるという考え方が一般的となっています。

アスベストは上記のような危険性を有するため、その不動産が投資対象として適格か否かを判断する、建物の遵法性・安全性を判断する一項目として、REIT等の機関投資家は特に注意するところです。

ただし、アスベストが使用されていることが直ちに問題となるのではなく、飛散すること、人が吸入してしまうことが問題となる点には留意する必要がございます。

尚、断熱の目的で利用される建材にはアスベストの他にもグラスウールやロックウールがありますが、これらについてはアスベストとは別物である点も留意ください。

グラスウールは特に寒冷地で建物の躯体内部(外壁と内壁の間)に充填されることが一般的で、通常は室内の空気を汚すことはありません。その繊維もアスベストに比べて太いため、鼻や気管支でほぼ除去され、万一肺に入っても速やかに排出されるとされています。

ロックウールについては長期間大量に吸い込むと健康被害を生じる可能性は否定できないものの、国内外で健康被害が発生したという報告はないとされています。

アスベスト関係法令改正の、建築物に対する影響

建築基準法の改正により、現在ではアスベストに関して現行法令に適合しない状態となっている建築物(既存不適格建築物)が多くなっています。

これらの既存不適格建築物を増築・改築・大規模修繕・模様替・解体する場合にアスベストが問題となります。

建築基準法改正の概要は以下のとおりです。
(1)吹き付けアスベスト・アスベスト含有量0.1%超の吹き付けロックウールの使用禁止
尚、その他のアスベスト含有建築材料(吹き付けパーライトや成型品等)は規制されていない。
(2)上記吹き付けアスベスト等のある既存建築物については、増築・改築・大規模修繕・模様替の際に原則として吹き付けアスベストを除去すること
(3)従前の床面積の1/2を超えない増改築及び大規模修繕・模様替については、当該部分以外の部分については※封じ込め又は囲い込みの措置でも可とする。
(4)工作物についてもアスベストに関する規制の適用については建築物と同様に扱う

※封じ込めとは、アスベスト飛散防止剤を吹き付け又は含浸させて飛散を防ぐこと、囲い込みとはアスベスト規制の対象となる建築材料を、①アスベスト等を透過させず②通常の使用状態における衝撃及び劣化に耐えられる材料で囲い込んで飛散を防ぐことをいいます。
(詳しくは国土交通省告示第千百七十三号(2006年9月)参照)

不動産投資を行って土地・建物を所有・運営している場合、上記のような責任を負わなければならないため、アスベストリスクには大きな注意を払う必要があります。

アスベストの使用されている可能性のある場所と、建物建築時期からの簡易推定方法

アスベストはおおよそ以下のような場所に使用されたと言われています。

(1)3階建以上及び床面積の合計が200㎡以上の鉄骨造の柱・梁等の耐火被覆として
(2)機械室・ボイラー室・エレベーターシャフト等の防音・吸音、結露防止、断熱材としての吹き付け材
(3)天井等の防音・吸音・断熱及び煙突の断熱としての断熱材
(4)天井・壁・床の下地、化粧用内装材や天井板、外装材、屋根材等の成形板

また、アスベスト使用建材の規制は以下のように変遷してきています。

年度 内容
1974年 ※吹き付けアスベスト施工中止
1975年 含有量5%以上の吹き付けアスベストの使用の原則禁止
1980年 ※アスベスト含有乾式吹き付けロックウール施工中止
1989年 ※アスベスト含有湿式吹き付けロックウール施工中止
1995年 青石綿、茶石綿といった有害性の高いアスベストを含有する製品の製造、使用の禁止
2004年 白石綿等の有害性の低いアスベストの含有量1%超の建材等の製造等の禁止
2006年 アスベスト含有製品(含有量0.1%超)の製造等を全面的に禁止
吹き付けアスベスト、吹き付けロックウール(含有量0.1%超)の使用の禁止

※…旧建設省の指導に基づく業界の自主規制

以上のとおり、アスベスト使用建材の規制の変遷を見ると、飛散しやすい吹き付けアスベストの施工は1989年でほぼ中止されているため、1990年(平成2年)以降に施工された建築物はアスベストに関するリスクの可能性は小さいと言えます。
(ただし、アスベスト含有製品はその時点でも製造されており、吹き付けアスベスト施工の中止も業界自主規制なので確認は必要です)

2006年に「石綿による健康等に係る被害の防止のための大気汚染法等の一部を改正する法律」が施行されており、同時に建築基準法も一部改正されているため、これ以降に建築された建物であればアスベストリスクは極めて小さいと言えます。

ただし、製造禁止については例外的で、製造禁止後に建築された建物であっても、建材に製造禁止以前に製造されたアスベスト含有材が使われている可能性は否定できません。
その場合、建築会社や建築士等に竣工図付属の建材リスト等を精査してもらってアスベスト使用の有無や危険性のコメントをもらっておけば安心です。

アスベスト調査会社による調査方法には一般的に以下の3つの行程があります。
(1)設計図面などの調査
建物の設計図書を調べることで、アスベスト含有材や拭き付けアスベストの使用の有無を調査します。
(2)実際の現場調査
建物の機械室、エレベーターシャフト、パイプシャフト等での吹き付けアスベスト使用の有無、天井や壁の建材等を現地で目視調査します。
(3)サンプリング調査
建材等の一部を採取し、専門の分析機関に委託して、アスベスト成分の有無を分析調査します。

アスベストを使用した建物の解体の際は、サンプリング調査まで行った上で調査報告書を公的機関に提出する必要があります。

アスベスト調査は以上のように各段階があります。そして(1)~(3)と段階が上がるにつれて調査費用も高額になるため、どの程度の調査までが必要になるかは建物の建築年度の他、どのような目的で調査をするのか、例えば投資対象とする物件の選定のための調査なのか、解体のための調査なのか、これらを踏まえて発注する必要があります。
上の表の建築年度からみて、飛散の可能性があるアスベストを使用していると思われる年代に建築された建物であれば、念のため設計図面などの調査を建築士等に依頼すると良いですが、それでも数万円~十数万円程度の費用がかかります。
そのため、アスベスト調査に関してはまず売主に調査履歴はないかどうか確認して資料を請求することが一般的でしょう。

また、必要に応じて買主が調査する場合でも、以上のような段階があるため、建築会社や建築士と言ってもこれらの行程を一社で行うことができるのは稀です。
そのため、危険なアスベストが使用されていることがほぼ確実で、更に封じ込め等の対策が講じられていない建物の場合は、建築士や建築会社、不動産会社にアスベスト調査を依頼することが一般的です。
どうしてもアスベスト調査ができる機関の紹介を受けられない場合は、一般財団法人日本アスベスト調査診断協会等の、アスベスト調査・研究団体があり、会員リストを公開している場合がありますので相談してみることも良いでしょう。

まとめ

  • アスベストを含む建物を購入した場合、解体工事費用の増加のリスクの発生や、保有期間中の飛散防止のための処置を取らざる負えない事態が発生する可能性あり。
  • 昭和の建物では、アスベストを使用している可能性は相対的に高くなるため注意が必要。特に昭和55年以前の建物では飛散しやすい吹き付けアスベスト使用のリスクは高まる。
  • アスベストの有無を検査する方法は、設計図書による調査、現地調査、分析調査の3段階がある。
  • 調査費用が高額になる場合もあり、売主がすでに調査をしていたら資料を請求することや、売主との交渉の中で費用負担を明確にするということも必要になる場合がある。
  • アスベストを使用した建物の解体の際には調査報告書の提出が義務付けられていたり、また売却する際にも価格を低下させるリスクになる場合もあるため、確実なリスク排除の場合は、決済前の調査がお勧め。