今回はPCB(ポリ塩化ビフェニル)という物質についてご紹介いたします。
PCBは旧来、コンデンサの絶縁体等として利用されていた物質ですが、発がん性等の危険が明らかになったため現在は製造・使用共に原則禁止されています。
旧来からのPCB使用機器を使った建物を所有する場合、PCBの保管状況を都道府県知事に毎年届け出る必要がある他、適切な管理を行ったり、廃棄の際に適切な処理を行ったりする責任を負うことになります。
そのため、不動産投資においては物件の資産価値を下げてしまう大きなリスクになるため、特に留意すべき事項です。
アスベスト等と同様、大規模な機関投資家がデュー・デリジェンスを行う場合、必ず留意すべきリスクのひとつとしてリストアップされている物質でもあります。
PCB(ポリ塩化ビフェニル)の性質と危険性
PCBはポリ塩化ビフェニル化合物の総称で、耐熱性・絶縁性・不燃性が高い無色透明で科学的に安定している物質です。
この特性を活かし、かつては変圧器やコンデンサの絶縁油、感圧複写紙、電気製品の安定器等に使用されていました。
日本国内では1954年(昭和29年)に生産が開始されており、約54,000トンが国内で使用されたと言われています。
PCBは脂肪に溶けやすく、中毒症状を起こすと目ヤニや爪・口腔粘膜の色素沈着、座瘡様皮疹や爪の変形、まぶたや関節の腫れ等を起こします。
PCBが大きく取り上げられた事件としては、1968年(昭和43年)に起こった、食用油の製造過程において媒体として使用されたPCBが混入し、健康被害を生じさせたカネミ油症事件が有名です。
PCBは生物の体内に容易に吸収される上、分解されにくく、蓄積されやすいため、大気や移動性の動物(渡り鳥等)を介して長距離を移動するという性質から、将来にわたって地球規模の環境汚染をもたらす可能性のある物質です。
カネミ油症事件以後も様々な生物や母乳等からもPCBが検出され、汚染が明らかになっています。
PCBリスクについて
PCBの製造自体は1982年(昭和57年)に中止され新たな製造はなくなり、1984年(昭和59年)6月施行の化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律によって、製造・輸入・使用は全面禁止とされています。
その一方、それまでに使用されていたPCBについては、2001年(平成13年)7月施行の「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法」によって、事業者に対して、確実かつ適切に処理すること、保管および処分の状況について都道府県知事に毎年届け出ること等の重い責任を課す規定が定められています。
これらの煩雑かつ重い責任に加え、健康被害を生じさせる可能性もあるため、建物遵法性・安全性の観点から投資家にとっては注意すべきリスク事項と言えます。
PCB処理に関しては日本環境安全事業株式会社法に基づいて設立された特殊会社である中間貯蔵・環境安全事業株式会社(旧・日本環境安全事業株式会社(国の100%出資))がPCB処理を進めています。
以下のページにはPCB使用機器の例が出されているため、ご参考ください。
http://www.jesconet.co.jp/business/PCB/pcb_04.html
PCB製造時期による使用の有無の判定
現在の建物内の機器や電気設備にPCBが使用されているか否かは、PCBの製造始期によって判定できます。
ただし、高圧コンデンサ等の電気設備は電気主任技術者等の専門家の調査があるとより確実です。
PCBの製造・使用状況は以下のように変遷しています。
年度 | 内容 |
---|---|
1930年以前 | PCBは実用化されていない |
1931年~1952年頃 | 海外メーカーがPCB使用機器を実用化している |
1953年~1955年頃 | 国内メーカーが輸入PCBによって使用機器を製造 |
1955年~1972年 | 国内製のPCB製造開始・国内メーカーによるPCB使用機器の製造が最も盛んだった時期 |
1973年~1974年頃 | PCBの製造・使用中止 |
1975年以降 | 新規のPCB使用機器の製造の全面中止 |
以上の変遷を考えると、建物に使用されている変圧器やコンデンサ、電気機器や設備(建物の竣工年度ではありません)の製造が1973年以降であれば概ねPCB使用のリスクは低いと言えます。
これに関しても、投資にあたっては建物の設備リスト等を売主から徴収して確認できればPCBリスクは事前に回避することができます。
まとめ
- PCBは人体への危険性が非常に高い物質であるため、アスベスト同様に投資家にとって大きなリスクとなる物質である。
- PCB使用機器を利用している建物を購入した場合、毎年都道府県知事に保管状況を届け出ること、廃棄の際に適切に処理をすること等の重い責任を負うリスクがある。
- 昭和50年以前に製造されたコンデンサ等を使用している建物については特にPCB使用の可能性が高まる。昭和50年以降に新築された建物であっても、それ以前に機器が製造されていた場合はPCB使用の可能性がある。
- PCB使用機器の利用可能性がある建物の場合は、設備リスト等を売主に請求してPCB使用機器リスト等と照合し、使用の有無を確認することがお勧め。