不動産投資における節税手法・個人①

会計事務所に長年勤務し、現在は不動産投資で生計を立てる筆者が、個人事業で不動産投資を行う際、必須となる節税手法を徹底的に解説します。

第1回として、所得税のかかる所得の計算上、不動産所得がどのような位置づけにあるのか、帳簿の付け方による特別控除等の特典の違い、そして所得控除と税額控除の違い、など、所得税の構造上の注意点を解説しようと思います。

これらを知らないと、実際には利用できない節税手法のために余計な手間や支出をかけてしまったり、逆に少しの手間を惜しんだために過大な税金を払うといったことになりかねません。

 所得税における不動産所得の計算上の注意点

まず、所得税の基本的な所得計算の仕組みを解説すると、所得の種類によって、総合所得として課税されるものと、分離所得として総合所得とは別の課税システムによって課税されるものに分かれます。代表的な総合所得には、給与所得、事業所得、不動産所得などがあり、分離課税所得には、譲渡所得があります。不動産投資の場合、通常の賃貸収入にかかる所得は不動産所得となり、物件を売却した時の売却にかかる所得は、譲渡所得に該当することになります。

本稿では、不動産所得の計算において節税の上で注意すべき点について取り上げます。不動産所得は、事業的規模と非事業的規模によって、取扱いが異なり、落とせる経費に違いがあります。事業的規模というのは、5棟10室(一棟物であれば5棟、アパートの部屋であれば10室)以上というのが目安となっていて、不動産収入が事業として成立する程度の規模であるという意味になります。ですから、5棟10室に満たなくても、たとえば大きなオフィスビルのワンフロアを貸していて、月額100万の家賃収入があると言った場合は、事業的規模に該当する可能性が高いと言えます。

【事業的規模と非事業的規模の違い】

事業的規模 … 直接経費、間接経費、専従者給与、青色65万控除

非事業的規模… 直接経費、青色10万控除

上記に、事業的規模と非事業的規模で、落とせる経費の違いなどをまとめました。非事業的規模では直接経費しか落とせないのに対し、事業的規模になると、直接経費のほか、間接経費や専従者給与も落とせることになります。青色申告の場合の特別控除額にも違いが生じてきます。

ここでいう直接経費とは、不動産収入に直接関連する経費を意味します。たとえば、物件の修繕費、保険料、租税公課や管理費などが該当します。そして、間接経費は、不動産収入に間接的に関連する経費のことを指し、物件を管理するために借りた事務所の家賃、水道光熱費、物件探しのインターネットの通信費、電話代、不動産投資のセミナーの参加費、営業マンの接待費などが該当することになります。

サラリーマンとの兼業大家の方などで、節税本やセミナーなどで勉強され、事務所経費を落とせると思って借りてしまっても、事業的規模に満たなければ勇み足で支出倒れということになってしまいます。逆に、直接経費しか経費に落とせないと思っていた方も多いと思うのですが、事業的規模になり、適切な会計処理を行えば、間接経費も経費に落とせることになります。この点については、稿を改めて詳述したいと思います。

 帳簿の付け方と青色申告

「不動産投資における節税の基礎」の稿でも簡単に説明しましたが、個人事業主の場合、帳簿の付け方によって差し引ける特別控除(特別経費)が異なることになります。

具体的には、青色申告特別控除というもので、一定の帳簿を備え付けることで認められる特別経費の制度です。単式簿記による場合、すなわち、損益計算書のみ作成する場合は、10万の控除を特別経費として不動産所得から差し引くことができ、複式簿記による場合、すなわち、貸借対照表と損益計算書の両方を作成した場合は、65万の控除を差し引くことができます。

帳簿の作成方法は、「不動産投資における節税の基礎」の稿をご覧になって頂きたいと思いますが、この青色申告特別控除の適用を受ける場合には、適用を受けようとする年の3月15日までに青色申告承認申請書を提出することが必要となります。注意したいのは、適用を受けようとする年の確定申告の時ではないということです。確定申告は翌年の3月15日までなので、その一年前までに提出しなければなりません。期限は絶対厳守ですので、ご留意ください。また、専従者給与を経費計上したい場合も同様に、その年の3月15日までに青色事業専従者給与に関する届出書を提出する必要があります。届書には、給与の支払限度額を記載する欄がありますから、少々多めに記載しておくといいでしょう。役員報酬的な意味合いもありますので、通常の業務を行う従業員給与と比べて少々高くても否認される可能性は少ないでしょう。お金の管理という重要性を強調して高い給与を認めさせることを考え、業務内容は経理業務を含めておくのが一般的です。また、専従者給与は、記載した金額はあくまでも限度額ですから、年の途中で減額しても構わないわけです。不動産投資の場合、あまり家賃収入が大幅に減るということはないでしょうが、逆に物件を新たに購入して、急に家賃が増えたなどという場合、届出書の記載の範囲であれば、給与額を増額して税金の調整をすることも可能です。「青色専従者給与に関する変更届出書」を提出すれば、翌月からの大幅増額も可能です。しかし、あくまでも正当な理由が必要と考えた方がよいと思われます。いざ税務調査があった場合は、最も目立つ箇所ではありますので、青色専従者給与の増減には正当な理由を用意しておくべきです。

ちなみにあまり知られていませんが、青色事業専従者給与に関する届出書を提出し忘れたとしても、配偶者であれば85万、その他の親族であれば50万の給与を無条件に経費として落とすことができます。

さらに、月8万8千円以上の給与を支払った場合は、源泉所得税の納付が必要になります。源泉所得税は毎月納付が原則ですが、面倒なので、6月ごとの納期の特例制度を利用するのが一般的です。納期の特例制度を利用すれば、1月~6月までの源泉所得税を7月10日までに、7月~12月までの源泉所得税を翌年1月20日までに納付すればよいことになります。「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出した翌月から適用を受けることができます。

最後に、個人の不動産投資における青色申告には、青色専従者給与の利用以外にも、大きな特典があります。少額の資産について取得した年に全額を経費に落とすことを認める制度が、通常10万円の価格が上限であるのを、青色申告者は30万円の価格まで引き上げられています。節税には大きなメリットとなるので、是非利用したいものです。

ここで、不動産投資の事例ではないのですが、私が経理役員をやっていたCG制作会社の少額減価償却資産制度を使った節税手法の事例を紹介したいと思います。この会社は、CGを制作するため、高性能のパソコンに多額の設備投資をしていましたが、50万円ぐらいのパソコンを購入しても、部品を購入して自作したことにして、それぞれの部品は30万円未満に収まるようにし、すべて購入年度に経費計上するようにしていました。不動産投資においても、この方法を応用し、リフォームの内訳を細かく分割してできる限り30万円未満に収めるような節税手法が可能です。詳細は稿を改めて解説します。

 所得控除と税額控除の違いと注意点

所得税の構造の話に戻るのですが、所得税の構造を理解していないと損をしてしまったりするケースがあります。

その最も注意すべき点として、所得控除の利用方法と税額控除との違いについて述べたいと思います。

1項で、所得税は総合課税の所得と分離課税の所得に分かれ、計算の方法が異なると述べましたが、総合課税の所得税は、その所得を合計した後、さらに各種所得控除を差し引いた後の所得に税率を掛けて計算することになっています。所得控除の代表的なものには、地震保険料控除、保険料控除、配偶者控除、扶養控除、基礎控除などがあります。これらの所得控除は、家計の経費のようなもので、最終的に所得から差し引けるので、税金計算においては経費とほぼ変わりませんが、一点だけ異なる点は、繰越損失にならないという点です。繰越損失制度とは、ある年で生じた赤字を、向こう3年間にわたって生じた黒字と相殺できるという制度です。つまり、簡単に言うと、不動産所得が赤字になったら翌年以降に繰り越せるが、所得控除で赤字になっても繰り越せないため、引けない分は節税面においては永久に役に立たない出費となってしまうのです。また、青色申告特別控除も同様に繰越はできません。

また、所得控除を利用する場合の注意点として、不動産所得計上の経費との整合性があります。たとえば、不動産所得に配偶者の専従者給与を計上した場合、その配偶者には給与収入があることになりますから、配偶者控除は利用できません。他の親族の給与を計上した場合の扶養控除についても同様です。さらに見落としがちなのは、保険料の二重控除です。賃貸用物件の損害保険料として不動産所得の経費に計上した保険料は、当然、所得控除の地震保険料控除には含めることはできません。節税効果面から両方の控除を検討する場合は、専従者給与は配偶者控除、扶養控除より当然有利で、地震保険料控除も上限額がありますから、不動産所得の経費に計上した方が有利です。

次に、税額控除についてですが、税額控除は文字通り税額から直接差し引ける控除のことで、住宅ローン控除が代表的なものとなります。実は、この住宅ローン控除は所得税制上はかなり特殊な制度であり、所得控除と異なり、税額が直接減るので節税メリットは非常に高いのです。また、住宅ローン控除は年末時点の借入金残高の1%となりますが、通常経費に落とせない筈の借入金元金の一部を税額から差し引くというのですから、法人税と比較してもありえない優遇税制と言えるでしょう。

不動産投資の場合、住宅ローンと直接関わってくる場面として、賃貸併用住宅を購入した場合が考えられます。賃貸併用住宅においては、居住用部分のローンについて分かれていない場合であっても、居住用割合を乗じて住宅ローン控除を利用すべきです。このとき、居住用部分のローン利息については、不動産所得の経費になりませんので注意が必要です。

また、気を付けなければならない点として、住宅ローンの残っている自宅を事務所利用する場合です。自宅の光熱費や通信費などを自家用と事業用に分けて、事業用部分のみ不動産所得の経費に計上する方法は、稿を改めて詳述しますが、このような場合、事務所として利用している部分のローンは住宅ローンから除かなければなりません。不動産所得に計上している事業用割合と、住宅ローンの居住用割合が合計して100%にならないなど、不合理な場合は、税務調査で指摘されることになります。たとえば、住宅ローンの居住用割合が70%であれば、不動産所得の事業用割合は30%となるのが通常です。

 

まとめ

個人の不動産投資における節税を考える前に、基本的な所得税の構造と不動産所得の位置づけを知っておくことが重要です。

総合課税の所得の一つである不動産所得は、事業的規模か非事業的規模かによって、計上できる経費の種類が大きく異なり、それによって準備する帳簿も異なります。どちらに該当するかを判断し、適切かつ効果的な節税を行うためには、各種申請書の提出が必要な場合もあるので、確定申告の一年前までに準備するべきです。

個人の不動産投資における青色申告の節税メリットは、主に3つです。第1に、青色申告65万控除、第2に、青色専従者給与の計上、第3に、少額減価償却資産の限度額30万円の引き上げ、です。

所得控除と税額控除を節税で利用するときは、赤字になって所得控除が無駄にならないようにし、不動産所得の経費との整合性にも気を付けるようにしましょう。所得控除でチェックすべきは、配偶者控除と扶養控除の不動産所得の給与、地震保険料控除と不動産所得の保険料になります。住宅ローンの税額控除は住宅ローンを組んでいれば是非利用したいものですが、これもローンの居住用割合と不動産所得の事業用割合との整合性に留意する必要があります。