【新米宅建士へのアドバイス】建物のチェックポイント

建物について詳細調査は専門家である建築士等が行う建物状況調査(エンジニアリングレポート等とも呼ばれます)に頼るしかないのですが、一般住宅や個人オーナーが所有している規模の物件ではそのような詳細な調査報告書があるのは稀でしょう。エンジニアリングレポートの作成費用は数十万円~数百万円の費用がかかるからです。
ここでは、公的資料と目視、ヒアリングによって確認できる範囲での建物調査についてお話しします。

公的資料での建物の確認

公的資料で建物に関するものというと、①登記簿・建物図面、②建築計画概要書・台帳記載事項証明書がメインです。

①登記簿・建物図面

これらでは建物の構造、敷地内の位置、土地の面積と比べて容積率オーバーがないかどうかを調べておきます。
建物登記簿の床面積を単純に合計した延床面積÷土地面積で算出した使用容積率では、建物の容積不算入部分(駐車場部分や共同住宅の共用部分等)があるために正確に容積率オーバーかどうかは判定できないのですが、本格的な役所調査・現地調査の前の机上での推定には役立ちます。

②建築計画概要書・台帳記載事項証明書

これらは役所で入手する資料ですが、これらには建築確認申請年月日、建築確認年月日、工事完了年月日、検査済証の発行を受けていれば検査済証発行日が記載されています。
これらは以下の事項の調査に役立ちます
・建物が旧耐震基準か新耐震基準か
「建築確認年月日」が昭和56年6月1日以降であれば、その建物は新耐震基準で建てられています。
かなり経験のある人でも間違って覚えている場合が多いのですが、これは「竣工日」のことではありません。あくまで「建築確認年月日」です。
例えば建築確認が昭和56年5月1日に下りて、竣工が昭和56年12月1日の建物であれば、建築確認はあくまでも昭和56年6月1日以前ですから、その建物は旧耐震基準の建物ということになりますので注意してください。

もちろん、旧耐震基準の建物であっても現行の耐震基準で要請されている性能を満たしている建物はたくさんありますが、通常建築士やゼネコン等でなければそういった実質面の調査はできないでしょう。

有害物質の使用の有無

建物に使用されている可能性のある有害物質はアスベストやPCBがメインです。
これらは建物竣工図や使用資材表、設備概要表等をチェックして、使用している部分があるかを資材名称等から判断するのが正式なのですが、竣工図等の資料が入手できない場合は建築計画概要書や台帳記載事項証明書記載の建築確認日から推定します。
アスベストやPCBの使用禁止年度をチェックして、それ以降の建築確認日であれば使用の可能性は低いと判定できます。

使用容積率

古い時代の建築計画概要書には記載されていないことが多いのですが、比較的新しい時代の建築計画概要書であれば建物の床面積のうち、容積算入面積と容積不算入面積の床面積がはっきりと明記されています。
また、実際に使用している容積率も記入されているため、使用容積率の観点から容積オーバーのある既存不適格建築物でないかが判定できます。
ただし、新築時から増築があって、増築部分について建築確認申請を出していないこともありますから絶対的な信頼はしないようにしてください。通常は増築部分についても建築確認申請をしますので、新築時・増築時・用途変更時それぞれの建築計画概要書があれば全て確認するようにします。

現地での建物のチェックポイント

現地では以下のような点を目視で確認しましょう。

①外壁

建物の外壁は、定期的に補修や塗装のやり直しをしない限り、10年もたてばどこかがひび割れています。ひび割れは大きくなると漏水や雨漏りの原因になりますから、しっかり写真に撮っておきましょう。ひび割れの補修跡等にも注意します。

②基礎部分

基礎に亀裂があれば、施工が良好ではないということが考えられます。
また、地盤が弱いために基礎に亀裂ができることがありますので、基礎に亀裂があれば基礎の部分と土地の接地面を観察し、必要があれば役所等で地盤の状況も確認します。

③雨漏りの跡

木造家屋で雨漏りの履歴があれば、通常は天井にシミができているはずです。可能であれば屋根裏も確認します。

④シロアリ被害

シロアリは建物の基礎部分を食い荒らして被害を与えます。
そのため、台所の床下収納庫をずらしたり、その他の床下の隙間からのぞいたりしてシロアリ被害がないかを確認しておきます。

⑤建物が傾いていないか

水平器を置いて確認します。

⑥屋上防水の状態

投資用マンションやオフィスビル等では屋上も確認しておきましょう。屋上防水はシート防水等が通常ですが、通常は数年~10年程度の単位でやり替えないと傷んで雨漏りの可能性が高まります。
屋上防水の保守管理状態ややり替えの履歴等は十分確認しましょう。

⑦エレベーター等設備の状況

エレベーターであれば内部に点検証があるはずです。これがないと違法ということになりますから、十分チェックしましょう。

⑧水害の形跡

ブロック塀や建物の外壁等のある程度の高さの部分に、不自然な横一線のシミがないかどうかを確認します。
これがあれば水害の履歴のある可能性が高く、そこまで浸水したのではないかということが推定できます。
役所のハザードマップ等もあわせて確認しておきましょう。

その他留意すべき事項

建物の調査では、現存している建物の確認も重要ですが、「建物を取り壊して建て替えた時にどのような建物が建てられるのか」ということも忘れてはいけません。
日影規制の記事でもお話ししましたが、背後に日影規制がかかっている用途地域がある商業地域の土地の場合、現在の建物は8階建であっても取り壊して建て替えると3階~4階程度の建物しか建てられないということもあります。

これは、日影規制は昭和51年に施行されており、それ以前の建物は日影規制に違反していても既存不適格建築物として、取り壊しや大規模な用途変更等を行うまでは現状のままでよいということになっているためです。

買主にしてみれば、現状8階建だから、建物は古いけれど取り壊しても8階までの建物を再築できると見込んで価格を決めたり、将来の売却益を見込んだりしているかもしれませんから、この点の調査漏れは致命的になります。

建物をチェックする際はこういった点にも十分注意しておきましょう。

纏め

  • 公的資料では耐震基準・有害物質使用の有無の推定ができる
  • 現地では目視で建物の保守管理の状況等を十分チェックする
  • 現地調査の際は「現在の建物のチェック」だけではなく、「取り壊して更地にした時にどのような建物を建てられるか」ということにも注意しなければならない