法人化して不動産投資を行うメリット −後編:制度と相続−

法人化のメリット–前編–では、法人化のメリットである、税率差と所得分配のお話をしました。

今回は、残る法人のメリットである、「生命保険」と「小規模共済」、「相続・経費」について説明をしていきたいと思います。

生命保険の活用

(ア)   個人と法人の生命保険での節税効果に違いがある

サラリーマンや個人事業主で生命保険をかけた場合は、新契約(平成24年1月1日以後に締結した保険契約)の場合は、生命保険・個人年金に加えて介護医療保険が加わったことで最大でそれぞれ8万以上の掛け金で4万円が控除の対処になり、24万円以上の掛け金で最大でその半分の12万円の控除になります。

 

しかし、法人の場合はどうでしょうか。

契約者が法人、被保険者が社長、死亡保険受取人が法人という契約形態を選択することができます。

このように契約すると、保険料を経費、すなわち損金として計算することができるのです。

保険の種類によって全額損金、2分の1損金、4分の1損金などが選択できます。控除額に税法上の限度額はありません。

全額損金にできるタイプの保険でも、支払った保険料は全て経費とすることができ、かつ、解約時には解約返戻金が保険会社から戻ってきます。

これは、今年の利益を納税して法人の中に内部留保していくのではなく、損金により利益を減らし納税額を少なくしながら、将来の不測の事態に備えて外部の保険会社に資金をためていくという考え方になります。

 

(イ)   生命保険は、一度加入したら終わりではなく計画的に活用する

将来お金がどうしても必要な局面になった場合には、貯まった解約返戻金を取り崩して事業運営資金とすることができます。

これを原資に、役員退職金や大規模修繕費などを支払えば課税を避けることができます。

あらかじめ建物修繕のタイミングや役員退職の時期などを想定し、計画的に生命保険に加入することで、将来の資金繰りを楽にすることができるのです。

 

個人の累進課税ほどではないにしろ、法人も400万円、800万円を境に税率が上昇します。

さらに、法人税は将来下がることが十分予想されるため、利益を税率の低いときに引き出す課税繰り延べをすることができるのです。

 

また、事業運営資金として使う計画がある場合は、各社のそれぞれの保険によって解約返戻率と時期が変わってきます。

保険を使った節税の場合は、解約時をあらかじめ設定しておき、もっとも有利な場面で計画的にお金を使うというプランニングが必要になります。

ただ、節税効果の大きい保険というのは、今までにもいろいろできたり消えたりしています。

すなわちそのような全額損金保険が広く節税保険として広がると、国税庁の方から通達改正などが行われて、半額損金に変更になってしまうことが良くあります。

そのため、節税のための生命保険の知識はすぐに古くなってしまうので、その都度、保険代理店に聞くことをおすすめします。

 

【制度面】小規模共済の活用

(ア)   小規模共済とは?

小規模企業共済は、「経営者にも退職金を」というコンセプトで、中小企業の役員や個人自営業者向けに、中小機構(独立行政法人中小企業基盤整備機構)が提供している退職金の積立制度です。

小規模共済は個人事業主や小規模の法人(20人以下)の役員であれば、加入することができます。

元々、大企業のサラリーマンと異なり、中小企業や個人事業者は退職金制度を作る余裕がないところが多いことから生まれたものです。

 

(イ)   小規模共済はサラリーマン大家も活用できる?

では、この小規模共済に、サラリーマン大家は加入できないでしょうか?

表向きは、サラリーマンは「主たる事業」が会社員であり、同共済は「副業」で加入することはできないため、基本的に加入できないということになります。

 

しかし、本業と副業の定義というのはあいまいです。

例えば、個人事業主が本業だけでは食べていけず、やむを得ずサラリーマンをやっている場合もあるでしょうし、家賃収入で一般的なサラリーマンの年収になる方も多くいます。

結局、会社員と不動産投資のどちらが副業かは、本人にしかわからないため、サラリーマンでも小規模共済に加入することができます。

 

(ウ)   小規模共済の仕組み

小規模企業共済は、中小企業基盤整備機構という国の機関に毎月一定額を積み立てて、会社を辞めた時は退職金として受け取ることができ、掛け金は千円~7万円です。

全額損金計上できるため、年間84万円の節税ができます。

支払った掛け金は年金のように積み立てられ、事業を辞めたときや満65歳になったときは退職金として受け取ることができます。

 

とはいえ、生命保険もこの手の共済も、すべて課税の繰り延べでしかありません。

満期になったり、解約して返戻金が入ったりした場合は、すべて「雑収入」として課税対象になります。

ただし、これらの多くは退職金を払う段階で解約し、その支払いに当てることで、「雑収入(利益)=退職金(損金)」となり、課税されなくなるという特徴があります。

 

(エ)   小規模共済は短期解約ができない

ただし、小規模企業共済は節税対策に大変有利な商品なのですが、手元資金が長期間使えないというデメリットがあるため、拡大期にある不動産投資家や資金繰りに苦しい不動産投資家にはあまりおすすめできません。

小規模企業共済は退職金の積立のために優遇された税制になっていることから、短期間で解約することを想定していません。

事業を廃業したときは別ですが、任意に解約するときには、20年以上掛け金を支払っていないと掛けた金額の100%が戻ってきません。

 

そのため20年以上の積み立てを続ける必要があるため、退職金の積み立てとして考えているのであればいいのですが、とりあえず節税をしておいて非常時に使いたいと想定している場合には、上記を想定して掛け金を積み立てることになります。

 

【相続税面】相続・経費のメリット

最後に「相続」、「経費」についてご説明したいと思います。

 

(ア)   相続上のメリット

まず、相続についてですが、個人事業主に相続が発生すると、事業で使用していた不動産等を含めて、事業主名義のすべての財産が相続税の対象になります。

しかし、法人の場合は法人名義の財産は相続の対象にはならず、死亡した株主の有する株式(合同会社では出資割合)が相続の対象となるにすぎません。

そのため、生前に株式を譲渡することにより、相続財産を分散させることが可能となり、事業をそのまま相続人に承継させることができます。

 

法人で物件を所有しておけば、不測の事態の際に後継者に譲ることができるということです。

この辺は自分の年齢や後継者の有無によっても考え方が違いますので、将来の生活設計をきちんと考えて、元気なうちから準備しておくことが重要だと思います。

 

(イ)   経費面でのメリット

法人の場合は「役員社宅」や「出張手当」などの経費計上が可能になります。

 

①役員社宅

個人事業の場合、事業専用の事務所や店舗が別にあり、自分が住んでいる住居は事業に全く使用していないと、住居費は税金の計算上全く費用になりません。

しかし、法人の場合だと、その取扱が異なります。

賃貸住宅であれば、法人が直接大家と契約し、この賃貸住宅を社宅として社長に貸付けます。

社長は家賃の半分(最低でも約20%)を法人に支払えば税務上の問題はなく、その差額(家賃の50%~80%)は法人の費用として処理することが可能になります。

仮に家賃が10万円だとすると、年間で10万円×80%×12ヶ月=96万円もが法人の費用となり、その分の節税が可能となる、ということです。

 

②出張手当

会社では、出張すると一日いくら、といった出張手当が出張者に支給されます。

もちろん、この出張手当は会社費用で、消費税法上の課税仕入として仕入税額控除も適用されます。

 

受取った社員の側では、出張手当に対して税金や社会保険が全く課されません。

つまり、支払った法人も受取った個人も共に節税が可能となり、大変重宝する便利な代物なのです。

出張手当が一日5千円で年間10日の出張があったとした場合、5千円×10日=5万円が法人の経費となり、かつ、個人の側では、一切の税金等が課されない5万円の手当を手にすることが出来るのです。

 

最後になりますが、青色申告の個人事業主の場合が3年間なのに対して、法人の場合は「7年間の赤字(欠損金)の繰り越し」が可能です。

このように、個人事業主に比べて様々なメリットを享受できるのが法人化の特徴であり、不動産事業を拡大していく上で、法人を利用することは非常に重要なことだと思います。

一度検討してみてはいかがでしょうか?